50代のダイエット 10キロ減に成功するも不調なのはなぜ?

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 夏を前に、新型コロナウイルス感染拡大による巣ごもり生活でたるんだ体を戻したい。とはいえ、マスクをしたまま走ったり、人が密集しがちなジムやプールに通うのは抵抗がある。ならば、糖質制限をしながら1日1万歩を目標に歩く。これなら実行可能だと考え、新たな日課にしている人もいるだろう。ところが、いざ始めると全身がだるくなったり、筋肉痛が出たり、頭がボーッとした状態になったり……。

 何年も前から健康診断で糖尿病を指摘されていた50代の男性が、リモート太りをきっかけにダイエットを決意した。

「夏までに成果を出すには糖質制限とウオーキングだ」

 そう考えて、大好きなゴハンや麺類をやめて、丼一杯の生野菜にサラダドレッシングをタップリかけて食べることに。それでもお腹がすくのでアーモンドやナッツを食べ続けた。いずれも聞きかじりの健康情報をもとに自分で決めたやり方だ。

 昼間はコーヒーだけでガマン。スマホの歩数計とにらめっこしながら毎日1万歩を目標に悪戦苦闘。平日達成できなければ、土日に足りない歩数をカバーした。3週間後、体重は95キロから85キロまで落ちたものの、頭がボーッとして、体が疲れやすくなった。

 自らも低糖質ダイエットで、2カ月で25キロ減を成功させた「みずい整形外科」(東京・祐天寺)院長の水井睦氏が言う。

「低糖質ダイエットは確かにやせますが、何の知識もない人が自己流で過激な低糖質ダイエットにチャレンジするのは問題です。まして年齢が高く糖尿病がありながら、診断とアドバイスを受けずに始めるのは危険です。頭がボーッとしたのは低血糖状態になったことが原因の可能性が高い」

 低血糖とは、血液中の糖分が異常に低くなる状態のこと。強い空腹感(副交感刺激症状)、冷や汗や動悸(交感神経刺激症状)、眠気(中枢神経症状)などの症状が出ることが知られている。

「低血糖の症状の出方は人によって異なります。血糖が低くなると、血糖を上げようと副腎からアドレナリンが出るため、攻撃的になりイライラして周囲に当たり散らす人もいます。また、体全体の糖質の20~30%は脳で消費されるため、極端な血糖の不足は、うつ症状や無気力、倦怠感につながることもあります」(水井氏)

■筋肉をつけるには炭水化物も食べなきゃダメ

 低血糖だと筋肉も疲れやすくなる。愛国学園短大非常勤講師で管理栄養士の古谷彰子氏が言う。

「筋肉は体を支えたり動かすだけでなく、血液中の糖質(グルコース)を筋グリコーゲンとして取り込むことでエネルギーを貯蔵し、血糖を調整する働きがあります。筋肉を動かすときは、筋グリコーゲンを分解してエネルギーをつくります。このとき、乳酸とともに水素がつくられます。その結果、筋肉に蓄えられた筋グリコーゲンの減少と水素による体の酸化で筋肉疲労が起きるのです。極端な低糖質ダイエットで筋肉が疲れるのは、このためです」

 怖いのは無謀で極端なダイエットは大事な筋肉をやせさせることだ。

「筋肉は年齢が高くなるほど減ります。70代の人の筋肉量は20代の4割といわれています。筋肉量は長生きにつながることがわかっており、その減少は問題です。先述したとおり、筋肉は血糖調整機能もあるので、筋肉量が減る高齢者ほど血糖の制御が難しく糖尿病が増えるのです。やせの糖尿病が高齢者に多いのも、このためです。しかも、糖尿病の人は筋肉量が減りやすい。無謀な低糖質ダイエットが筋肉減少に拍車をかける可能性もあります」(水井氏)

 筋肉量の低下は、筋肉と骨をつなぐ「腱」も弱くする。

「極端な低糖質ダイエットをしている中高年の中にはアキレス腱や指や肩の腱板が痛いと訴える人もいます。腱が断裂すると手術以外に再生できません。普段歩かない人が毎日1万歩はオーバーワークです」(水井氏)

 そもそも1日1万歩に科学的根拠はない。宣伝用の言葉が健康常識と勘違いされているだけだ。

 では、どうすればいいのか? 古谷氏は「ダイエットをするときこそ、いつも以上にミネラルやビタミンを含め栄養素の取り方に気を配る必要があります。とくに、運動後は炭水化物をまったく取らないのではなく、良質なタンパク質と一緒に取りましょう。筋肉の回復効果が上がることがわかっています」と言う。

 とはいえ、一般の人がダイエットについての栄養を理解するのは難しい。

「だからこそダイエットは、それに詳しいトレーナーが必要です。私は彼らのアドバイスに従って1回1時間、週3回ジムで運動し、食事の取り方を教わることで健康的にやせられたのです」(水井氏)

 ダイエットは体を変えることであり、命に関わる一大事。何の準備もなしに、軽い気持ちで手を出すべきものではないのだ。

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