血糖が徐々にたまって深刻な病気を引き起こす「血糖負債」 HbA1cの値にご注意を!

「コロナ禍で糖尿病のリスクが高まっている」と、8割の医師が警告

「コロナ禍で糖尿病のリスクが高まっている」と、8割の医師が警告を発していることを報告した日本生活習慣病予防協会の調査結果は、血糖値が気になる中高年世代には衝撃だった。しかも、糖尿病にはなっていなくても高血糖の状態が長く続けば「血糖負債」として、血糖が負債のようにたまって、体にダメージを与え、健康寿命を脅かすというのだ。血糖コントロールの指標であるHbA1cの値が重要になるようだが、どう対策すればいいのか。そのヒントを、同協会が実施した「『血糖負債』オンラインセミナー」で見つけた。

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「『血糖負債』とは、たとえ異常値には達していなくても、高血糖状態を長年放置していると、体にとって取り返しのつかない負債になることを表す言葉です」と、日本生活習慣病予防協会の宮崎滋理事長。

 人間ドックや健康診断などで血糖の状態を示す指標であるHbA1c(ヘモグロビンエーワンシー)が6.5%以上であれば糖尿病と診断される。しかし、HbA1cがその手前の5.6〜6.4%の場合でも少しずつ「血糖負債」がたまってしまい、体が徐々にむしばまれていく恐れがあると言うのだ。

「問題なのは、糖尿病や『血糖負債』の指標となるHbA1cについて、一般生活者の方々の6割以上が知らないこと。糖尿病や『血糖負債』のリスクを減らすためにも、まずはHbA1cを知る・計ることが重要なのです」

 なぜ血糖値の指標としてHbA1cが重要なのか。順天堂大学大学院医学研究科代謝内分泌内科学の綿田裕孝教授はこう話す。

「血液中のブドウ糖の量を測るのが血糖値ですが、血液中のブドウ糖の量は、食前・食後で大きく変わります。そこで、有用な指標として用いられているのがHbA1cです。これは、少なくとも過去1〜2カ月間にわたる血液中のブドウ糖量を示すので、食前・食後に関係なく、血液中のブドウ糖濃度がどれだけ高いのかを的確に知ることができるのです」

順天堂大学大学院医学研究科代謝内分泌内科学 綿田裕孝教授
順天堂大学大学院医学研究科代謝内分泌内科学 綿田裕孝教授
血糖がほんの少し高いだけで心疾患や脳卒中のリスクが上がる…

 血液中の赤血球にはヘモグロビンというタンパク質がある。このヘモグロビンは、その周りに存在するブドウ糖によって糖化されてしまうそうだ。

「一般的にヘモグロビンの寿命は120日程度。過去に糖化されたヘモグロビンは、体の中で分解されない限りある程度の期間残ります。したがって、HbA1cは過去1〜2カ月の血糖値がどれだけ高かったかを示すことになるわけです」(綿田教授)

 健康診断を受けるときに、良いデータを出そうとして2日間絶食すると血糖値はストンと落ちるが、HbA1cはほぼ変化しないそうである。

「血糖がほんの少し高いだけで、正常値の人と比べて心疾患や脳卒中のリスクが上がると言われています。そういう意味でも、『血糖負債』が溜まりつつある状況を見過ごさないことが重要。『血糖負債』が溜まっていても、早い段階で対策をすれば疾患の悪化にブレーキがかけられます」

リンクアンドコミュニケーションCPHO・管理栄養士 佐々木由樹先生
リンクアンドコミュニケーションCPHO・管理栄養士 佐々木由樹先生
食事は未精製穀類、野菜、果物。そして運動は1日20分、週3回を目標に

 どうやって血糖負債対策をすればいいのか。

「高血糖対策の基本の『き』は食事療法です。減量するためには食事の量を減らすのではなく、カロリーを調整してください。太る・痩せるは、カロリーの影響が大きいからです」とアドバイスするのは、管理栄養士でリンクアンドコミュニケーションCPHO(最高公衆衛生責任者)の佐々木由樹先生。

「1日1食分を、例えば、玄米ご飯やシリアル、そば、全粒粉パスタなどの未精製穀類にすることも大切です。未精製穀類の摂取量が1日あたり90グラム増えると、糖尿病リスクが26%低減するという報告もあります。また、野菜や果物は積極的に摂ると良いでしょう。間食でお菓子を食べる人はタンパク質とミネラルが豊富なヨーグルトを使ったデザートに置き換えることもお勧めします」

 もう1つの高血糖対策は運動だ。

「リモートワークなどで2時間座り続けたら、ストレッチなどで10分ほど軽く体を動かすようにしたほうがいいですね。また、アメリカの糖尿病ガイドラインでは、少し息がはずむような運動を1日20分程度(週2.5時間)行うことを推奨しています。できれば毎日するのがいいのですが、まずは週3回を目標にはじめてみてください」
 
 できそうなことを実行して、「血糖負債」をチャラにしたいものである。

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