人生に勝つ性教育講座

「梅毒」がシューベルトを歴史的な有名作曲家に変えた?

ウィーン市立公園のフランツ・シューベルト像

 良い芸術作品にはどこか死の影がある――ある評論家が発した言葉です。言われてみればその通りです。人は芸術作品の中に死の影を嗅ぎ取ります。そして限られた人生だからこそ生きていることの素晴らしさや生命の輝きを知るのでしょう。つまり、芸術家とは一般の人が普段は意識することのない死に常に向かい合い、その対極にある人生の輝きを作品にしているのではないでしょうか。

 その意味で、19世紀を代表するオーストリアの名作曲家・シューベルトもその一人かもしれません。シューベルトは31歳の短い人生の間に1000曲を超える作品を残します。作曲家としての活動期間はせいぜい13年程度ですから、これは驚くべき数です。中でも名作とされる楽曲は最後の5年に集中しています。この5年間にシューベルトは何か死を意識する出来事があったのでしょうか?

 音楽を勉強した方はご存じでしょうが、シューベルトの直接の死因は神経症で、当時、梅毒治療で良く使われた水銀の中毒が引き起こしたと言われています。

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尾上泰彦

尾上泰彦

性感染症専門医療機関「プライベートケアクリニック東京」院長。日大医学部卒。医学博士。日本性感染症学会(功労会員)、(財)性の健康医学財団(代議員)、厚生労働省エイズ対策研究事業「性感染症患者のHIV感染と行動のモニタリングに関する研究」共同研究者、川崎STI研究会代表世話人などを務め、日本の性感染症予防・治療を牽引している。著書も多く、近著に「性感染症 プライベートゾーンの怖い医学」(角川新書)がある。

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