良い芸術作品にはどこか死の影がある――ある評論家が発した言葉です。言われてみればその通りです。人は芸術作品の中に死の影を嗅ぎ取ります。そして限られた人生だからこそ生きていることの素晴らしさや生命の輝きを知るのでしょう。つまり、芸術家とは一般の人が普段は意識することのない死に常に向かい合い、その対極にある人生の輝きを作品にしているのではないでしょうか。
その意味で、19世紀を代表するオーストリアの名作曲家・シューベルトもその一人かもしれません。シューベルトは31歳の短い人生の間に1000曲を超える作品を残します。作曲家としての活動期間はせいぜい13年程度ですから、これは驚くべき数です。中でも名作とされる楽曲は最後の5年に集中しています。この5年間にシューベルトは何か死を意識する出来事があったのでしょうか?
音楽を勉強した方はご存じでしょうが、シューベルトの直接の死因は神経症で、当時、梅毒治療で良く使われた水銀の中毒が引き起こしたと言われています。
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