進化する糖尿病治療法

受診中断理由で多い「忙しい」「病院が遠い」「経済的負担」

 私が診ている大学病院では、比較的重症な糖尿病患者さんや治療に熱心な患者さんが中心ということもあり、受診を中断せず、病院に通い続けてくれている方がほとんどです。ただ、糖尿病患者さん全体で見ると、途中でドロップアウトしてしまい、症状が進行してからまた通い始める、という方も少なくありません。

 厚労省の「糖尿病予防のための戦略研究」では、「通常診療群(積極的に治療の必要性を説かない一般的な診療)」で、1年当たりの受診中断率は、「パイロット研究」では8.16%、「大規模研究」では8.25%。パイロット研究とは、研究の初期段階で行う少人数の被験者を対象とした研究のことで、これらの結果から1年当たりの受診中断率は8%程度と推定されます。

 この研究結果からは、年齢では若い人ほど、性別では男性ほど、そして仕事を持っている人ほど、受診の中断をしやすい傾向にあり、過去に受診中断をした人の方が受診中断率が高い、と示されました。

 受診中断理由としては、「仕事/家庭の事情で忙しい」「自宅から距離が遠い」「体調が良い」「今通院しなくても大丈夫だと思う」「糖尿病を治療する必要性を感じない」「医療費が経済的に負担であるから」が目立ちました。

 また、「糖尿病予防のための戦略研究」とは別の調査では、受診を中断した理由として「時間を取るのが難しい、仕事を休めない」「予約日をキャンセルして行きづらくなった」、そしてやはり「医療費の負担」が挙がっていました。

 糖尿病は、自覚症状なく進行する病気です。神経障害、網膜症、腎臓障害といった3大合併症のほか、動脈硬化、動脈硬化による心筋梗塞や脳卒中など心血管障害、認知症、がん、心不全など、さまざまな病気に関係しています。

 糖尿病の治療を中断すると、しばらくは何の不調も感じないでしょう。しかし、合併症や糖尿病に関係する病気の発症リスクを確実に上げます。現状では、比較的若く糖尿病と診断された方のほうがさまざまな合併症が多くなると報告されています。

 また、糖尿病がかなり進行してから治療に取り組んでも、進行スピードを緩やかにできるものの、元の健康な状態には戻れない。私たち医療者側が、糖尿病治療の継続の重要性をしっかりと患者さんに説かなければならないのですが、患者さんも時に「意識改革」が必要です。

 糖尿病治療の継続の重要性を認識したら、次は、どうすれば通い続けられるか。「忙しく時間のゆとりがない」といった場合、最近は夜間や休日に通常の外来を行っている医療機関もあるので、自分が通いやすい条件のところを探してください。医療機関によっては、オンライン診療という方法もあります。

 通っている医療機関を替える際は、日常の動線上にある医療機関を選ぶといいでしょう。同じ最寄り駅でも、会社や自宅からは結構離れているという場所の医療機関では、「今日予約が入っているけど、忙しくてあそこまで行っている時間がない」となりかねない。

 一方で、日常の動線上ではなくても、好きな映画館や本屋、アパレルショップなどが近くにある医療機関なら、「帰りにあの店に寄ろう」と思え、それが通院のモチベーションアップにつながるかもしれません。

 ただし、医療機関を替えるときは、現在の主治医に相談してから。新しく通う医療機関への情報伝達が行われ、治療がスムーズに引き継がれます。「今の主治医に悪くて言い出せない」と考える方がいますが、医師が最も危惧しているのは治療の中断ですので、治療継続のための転院には真摯に対応します。

 医療費が経済的に負担である場合は、より薬価の低い薬やジェネリックに変更するという手もあります。経済的な話はなかなか口にしにくいと思いますが、そこはぜひストレートに言っていただければと思います。

 なお、「薬の数が多くて飲めない」という場合も相談を。現在、糖尿病薬は種類が多く、合剤なども出ているので、その患者さんにとって飲みやすい薬に変更することができるかもしれません。

坂本昌也

坂本昌也

専門は糖尿病治療と心血管内分泌学。1970年、東京都港区生まれ。東京慈恵会医科大学卒。東京大学、千葉大学で心臓の研究を経て、現在では糖尿病患者の予防医学の観点から臨床・基礎研究を続けている。日本糖尿病学会、日本高血圧学会、日本内分泌学会の専門医・指導医・評議員を務める。

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