女性の不妊治療で何が行われているのか

不妊治療専門の病院・クリニックの正しい選び方

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写真はイメージ(C)日刊ゲンダイ

 みなさんはどのように病院・クリニックを選んでいらっしゃるでしょうか。自宅あるいは職場の近くのクリニックにとりあえず行ってみるという方も多いと思います。もし本格的に不妊治療を始めようと考えたら、不妊専門の病院・クリニック選びは非常に重要になってきます。

 不妊患者さんの多くはご自分のお仕事をしながら不妊治療に通っておられます。不妊治療の診察は他の治療とは異なり、毎月の生理周期の中で適した検査の時期、診療の時期が決まっています。もし排卵の時期を逃してしまったら、次の排卵日まで1カ月以上待たなくてはなりません。通院回数も頻繁ですので、仕事の前や途中で通院するのか、仕事が終わった後に通うのか、ご自身の生活スタイルに合わせて、できるだけ無理なく通えるよう病院・クリニックの場所だけでなく、診療時間も加味して選ぶことが大切です。

 病院・クリニックを選ぶにあたって、治療成績を気にされる方も多いと思います。実は医療機関によって治療成績、特に体外受精の治療成績は大きく異なると言われています。ホームページなどに治療成績を公表している病院・クリニックも増えています。ただ、そこには注意しなければならない点があります。

■妊娠率や年間の採卵件数には注意が必要

 たとえば、A病院は妊娠率40%、Bクリニックは妊娠率35%でしたとホームページに記載があったとします。A病院の方が治療成績は良いのでA病院に行こうと思われるかもしれませんが、そうとは限りません。

 実は妊娠率と一言でいっても、その妊娠数が「妊娠反応が陽性となった患者さんの数」なのか、あるいは「胎嚢と呼ばれる赤ちゃんの袋が見えた患者さんの数」(臨床妊娠率)なのかにより、値は大きく変わってきます。前者には胎嚢が見える前に流産となる方が含まれるため、後者より妊娠率は高くなります。もしA病院が前者の妊娠率を記載しており、Bクリニックが後者の臨床妊娠率を出していた場合は比べることはできません。

 また、妊娠率を計算するときの分母を何にしているか(施設の全移植数なのか全採卵数なのか)でも値は大きく異なります。妊娠率を比較する際には、ただ妊娠率の値だけを見るのではなく、どうやって計算された妊娠率なのかに注意する必要があるのです。

 体外受精による治療は医師の力量だけでなく、培養士あるいは培養環境が、より良い受精卵(胚)を作るのに重要となってきます。現在、日本で不妊治療を専門とする病院・クリニックは全国で600施設を超えています。中には、年間で数十件しか採卵を行っていないところもあり、実施件数が少ないと培養環境を適切に維持することは難しくなってきます。

 たとえば、受精卵を培養するのに必要な培養液は1本を患者数人に分けて使用しますが、採卵件数が少なければ培養液の使用期間も延び、劣化していきます。このように培養環境のクオリティーという面を考えると、ある程度採卵件数のある病院・クリニックを選ばれたほうがよいでしょう。

 患者さんの中には、治療方針はすべて医師にお任せという方もいらっしゃいます。しかし治療が難航している患者さんほど、ご自身でよく勉強されており、医師が驚くほど多くの知識をもっている方もおられます。不妊治療は100人の医師がいたら100人とも同じ治療するという医療ではありません。まだまだエビデンスの高いものから低いものまでさまざまな治療が行われており、医師によってどの治療法を選択するかは大きく異なります。

 そこで大事なのは、ご自分が通われている病院・クリニックの医師が提案する治療に納得できるかどうかです。高額な治療費と時間を要する不妊治療を行っているのですから、患者さん自身が治療方針を十分に理解し、納得できる病院・クリニックに通いましょう。

小川誠司

小川誠司

1978年、兵庫県生まれ。2006年名古屋市立大学医学部を卒業。卒後研修終了後に慶應義塾大学産科婦人科学教室へ入局。2010年慶應義塾大学大学院へ進学。2014年慶應義塾大学産婦人科助教。2019年那須赤十字病院副部長。2020年仙台ARTクリニックに入職。2021年より現職。医学博士。日本産科婦人科学会専門医。

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