名医が答える病気と体の悩み

一汁一菜の「粗食」は長生きするといわれるが…本当なのか

内科・皮膚科学の馬渕知子氏
内科・皮膚科学の馬渕知子氏(提供写真)

 人間の成人の体内は55~60%が水分ですから、十分な水分を取っていれば、俗に言う「一汁一菜」の粗食でも生きていけます。

 しかし、長生きできるかといえば別で、医師個人としては低カロリー食も度を過ぎれば体を壊すため、年をとっても肉や魚もバランス良く食べることを勧めています。

 理想をいえば厚生労働省「日本人の食事摂取基準(2020年版)」を参考にするといいでしょう。1日に必要なエネルギーや栄養素量を示していて、たとえば、タンパク質の1日の必要量は体重1キロ当たり1.1~1.2グラムで、体重50キロだと50~60グラムになります。50~64歳の男性の推奨量を見てみると、タンパク質は65グラム、エネルギーは2600キロカロリー、ビタミンB12は2.4ミリグラム、ビタミンCは100ミリグラム、カルシウムは750ミリグラム、ナトリウム(塩分)7.5グラム未満、鉄7.5ミリグラムといった具合に提示されています。つまり、粗食にこだわってしまうと栄養素が足りず、食べ過ぎもまた栄養を取りすぎることで体に支障をきたします。

 しかし、バランスを意識するあまり我慢してしまえば食事がストレスとなります。患者さんにも80~90代と長生きな方はいますが、実は極端な食生活をしているケースは少なくありません。いわゆる肉好きや野菜嫌いなど偏食家だったりしますが、栄養バランスはプラスマイナスゼロになればいいと考えています。

 野菜嫌いの場合なら、本来、野菜から摂取する食物繊維を取るためにご飯を白米から玄米に替えます。玄米の食物繊維量は白米のおよそ5倍といわれます。肉を食べない方はタンパク質が不足しますが、大豆から摂取することはできます。それでも足りない分はサプリで補っても問題ありません。

 長生きには何より“快食”が大事で、好きなものを我慢せずにどうしても食べたくないものは代用し、リラックスして食事をすることが副交感神経を優位にし、消化や吸収も助けます。

▽馬渕知子(まぶち・ともこ)東京医科大学医学部医学科卒業後、同医科大学病院皮膚科学講座に所属しながら同病院に勤務。2008年にマブチメディカルクリニックを開設・同院長。内科・皮膚科学、アンチエイジング医療、分子整合栄養学を専門とする。また、15年から東京栄養食糧専門学校副校長、17年から学校法人食糧学院副学院長も務める。

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