アトピー性皮膚炎は遺伝的、あるいは環境的なストレスが原因で起こる皮膚の炎症です。多くの因子が関与する、意外に複雑な疾患ですが、近年は治療の選択肢が増えてきました。
特に子どもや10~30代の若い世代に多く、重症化すると顔や首など目立つ部位に発症します。
かきむしった結果、肌の色が紫っぽくなったり、皮膚が粉っぽくなったり、ゾウのような表面になるなど見た目の変化も大きいため、人目につくことを嫌がる人が多くいる疾患でもあります。容姿を気にするあまり外出ができなくなったり、うつになる人も珍しくありません。
皮膚科医になったばかりの頃、先輩から痛ましい話を聞きました。ご自身もアトピー性皮膚炎で悩まれていた若いお母さんが、生まれた子どもも重度のアトピー性皮膚炎で、医者から「治らない」と宣告されたことに絶望し、赤ちゃんを道連れに自殺してしまったという悲しい事件です。
それくらいアトピー性皮膚炎というのは、肉体だけでなく精神的にも苦しみをもたらすのです。
アトピーがうつにまで発展してしまう原因のひとつに、ひどいかゆみがあります。
かゆみが悪化すると集中力が低下します。アトピー性皮膚炎には軽度、中等度、重度とありますが、中等度以上の人は集中力が低下し、労働生産性が3割程度落ちるというデータもあります。子どもさんや学生さんがアトピー性皮膚炎のために勉強に集中できず、思うような成績を残せない場合、その後の人生が大きく変わっていくことも予想されます。
社会に出る際にも、見た目の問題から人前に出る職業を避ける傾向にあります。つまり、職業選択の自由が狭くなるわけです。
また、ひどいかゆみのために、つい引っかいたりして肌を傷つけ、さらに皮膚の状態が悪化するという外見的な問題だけでなく、熟睡できないため睡眠不足になります。脳も十分な休息を取れませんから、自律神経のバランスが崩れたり、脳が疲弊して、うつが加速しやすくもなります。
アトピー性皮膚炎の治療法はステロイドの塗り薬で症状を抑えるくらいで、長年、決定的な治療法がありませんでした。
しかし、前回紹介したように近年は、飲み薬や注射薬で治療効果の高い新しい治療薬が開発されています。
保険も適用されますから、重症患者さんでも完治に近い状態が期待できます。そこまでいかないにせよ、かなり症状を抑えられます。
注射と、飲み薬、塗り薬の併用で、早い段階で相当のかゆみを抑え込めます。塗り薬ではザラザラの皮膚をつるつるの状態にしていきます。
最後になりますが、先ほどの先輩から下記のように言われました。
「アトピー性皮膚炎は今は治らない病気だけど、科学の進歩で必ず治せる日がくる。だから、患者さんに『治らない病気』と言ってはいけない」
先輩の言葉が現実になりつつあり、皮膚科医の間ではアトピーは治せる疾患になりつつあります。アトピーでお悩みの方は、希望を持って治療に臨んでいただきたいです。
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