梅毒をテーマにしたのは、モーパッサン自身が梅毒だったからかもしれません。彼は27歳頃から梅毒による神経障害に苦しむようになり、38歳で不眠症を患い、奇行が目立つようになります。「エッフェル塔を見るのが嫌で、エッフェル塔のレストランで食事をした」というエピソードはこの頃の話です。そして41歳でピストル自殺未遂を起こして精神病院に入院し、そのまま42歳で亡くなります。
モーパッサンが梅毒に感染した当時の人たちはその深刻さに気づいておらず、軽く考えていたようです。それは梅毒が症状が出ては消え、消えては出てくるを繰り返しながら重症化するため、その経過を知る人が少なかったからかもしれません。
実は梅毒の患者はどのように重症化し、亡くなるのか、医療関係者でも長い間わかっていませんでした。それを調べるために恐るべき実験が米国で行われたことがあります。それが「タスキギー梅毒人体実験」です。梅毒を治療せずに放置したらどうなるかを調べるため、1932年から40年間にわたり、米国アラバマ州のタスキギーという町の黒人600人を対象に、米国の政府機関によって行われました。
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