Dr.中川 がんサバイバーの知恵

俳優・辻萬長さんが治療で大河ドラマ降板 腎盂がんは30%が膀胱にも転移

 腹部エコーで見つかることも
腹部エコーで見つかることも(C)PIXTA

 残念なニュースです。俳優の辻萬長さん(77)が、腎盂がんの治療のため、来年の大河ドラマを降板すると報じられました。

 腎盂は、腎臓の中にあり、じょうごのような役目を果たしています。糸球体で作られた尿は、腎盂でまとめられ、尿管を通って膀胱へ。膀胱にたまった尿が一定量を超えると、尿意を感じ、尿道から排出されます。

 尿の通り道である腎盂から尿道までの尿路は、すべて移行上皮という組織で、腎盂がんは移行上皮がんです。一般に腎臓がんというと、腎臓の実質的な働きを担う腎細胞ががん化し、悪性腫瘍になったものを指します。この点で、腎盂がんと腎細胞がんはまったく異なる病気で、治療法も違うのです。

 腎盂や尿管は、尿路の上部にあたります。この部分にがんがあると、約30%に膀胱にもがんがあり、逆に膀胱がんの5%には、腎盂や尿管など上部尿路にもがんができやすい。

 このような性質から、腎盂がんが見つかると、尿路すべての検査が不可欠です。治療は手術が基本。転移がなければ、がんができた方の腎盂を含む腎臓と尿管、膀胱の部分切除をするのがセオリーです。

 腎盂がんは、一般の腎細胞がんに比べて、対象となるエリアが広い。その点で厄介といえるかもしれません。ただし、腎臓は2つあるため、もう1つが正常なら、術後の生活は特に支障ありません。

 転移がなくても手術が難しければ、抗がん剤治療をしてから手術することも。逆に術後に転移の恐れがあると、抗がん剤をプラスします。

 症状は血尿が典型ですが、初期はほとんどありません。がんが進行して大きくなると、その部位からの出血が固まり、尿管が閉塞。そこから下流に尿が流れにくくなり、がんがある側の腰や背中、脇腹などが痛むことがあります。水腎症と呼ばれる症状です。

 人間ドックや別の病気で受けた腹部エコー検査によって、腎盂などの異常が見つかり、無症状で発見されることも珍しくありません。尿検査の顕微鏡的血尿で発見されるのもひとつです。

 膀胱に再発すると、膀胱全摘が必要になる可能性があります。そうなると、人工膀胱を余儀なくされ、生活の質が大きく損なわれますから、腎盂がんは特に早期発見、早期治療が大切でしょう。そのためには、がん検診や毎年の健康診断をおろそかにしてはいけません。

中川恵一

中川恵一

1960年生まれ。東大大学病院 医学系研究科総合放射線腫瘍学講座特任教授。すべてのがんの診断と治療に精通するエキスパート。がん対策推進協議会委員も務めるほか、子供向けのがん教育にも力を入れる。「がんのひみつ」「切らずに治すがん治療」など著書多数。

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