認知症を予防する補聴器のすべて

「補聴器を買えばOK」「つければ聞こえづらさ改善」は間違い

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写真はイメージ(C)日刊ゲンダイ

 難聴の方の補聴器選びをお手伝いしている中で、よく感じるのは「補聴器を買えば万事OK」「つけ始めたら、聞こえづらさがすぐ改善する」と考えている人が多いということ。

 68歳で「うぐいす補聴器」を訪れた男性もそうでした。65歳の時に一度他店で補聴器を購入したものの、期待していた効果を得られず、聞こえづらいのは仕方ないと思っていたが、いまだ現役で続けている仕事に支障が生じるため、再度補聴器を使おうと思い立ったとのこと。

 私は、2つのことを伝えました。それは、補聴器はすぐ聞こえるようになるものではないこと、効果測定をしながら徐々に音に慣れるトレーニングが必要であること。男性は渋々でしたが、補聴器のトレーニングを開始。3カ月後にこんなふうにおっしゃったのです。

「今まで6割ほどしか聞こえず、トンチンカンな方向に聞き返していたが、これをつけると9割は聞き取れる。残りの1割は分からなくても、自信をもって聞き返せる」

 さらに1年がたった先日、補聴器の点検に来られたので、今年2月にデンマークのメーカーから販売された最新の補聴器の話をしました。その補聴器は、受け取った音が音声かどうかを判断し、耳に届ける音を処理・峻別するAIを搭載したもので、360度の音を脳に届けるという、これまでなかったタイプの補聴器です。

 一度試してみたいと言うので早速貸し出すと、「前の機種より人の話が分かる」「より効果的に仕事ができるのであれば、この補聴器を『投資』だと思える」と絶賛し、結構な高値の補聴器でしたが、購入を決断。70歳を前に、仕事を続けるか退職するか悩んでいたタイミングだったようです。それが、最新補聴器を試したことで自信がつき、現役続行を決断されたのでした。 

 補聴器は、「適切なトレーニング」と「商品の良さ」が合わさることで、単なる聴力を補う機器ではなく、人生を共に歩む強力な相棒にもなるのです。

田中智子

田中智子

シーメンスの補聴器部門でマーケティングの勤務を経て、2020年補聴器販売会社「うぐいすヘルスケア株式会社」設立。認定補聴器技能者資格保持。

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