最期は自宅で迎えたい 知っておきたいこと

リビングに介護ベッド設置 家族と過ごす時間が自然に増えた

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写真はイメージ(C)日刊ゲンダイ

 在宅医療を開始する前の大切な準備に「環境調整」があります。これは主に患者さんが病院から帰ってくる自宅の療養環境の整備を意味します。

 たとえば、事前に「ベッドが入っていないので自宅の整えが必要」などとケアマネジャー(以下、ケアマネ)さんに申し送りをします。

 本来なら時間をかけて介護ベッドやポータブルトイレ、手すりなど、自宅で療養するための環境を整え、退院を待つのがベスト。しかし、患者さんに残された時間が少ない場合など、自宅へ帰ることを優先し、急いで環境を整えます。

 しかし退院後、自宅に見慣れぬ大きな介護ベッドやポータブルトイレが鎮座しているのを見て拒否感を抱く患者さんもいます。入院前と退院後で本人の状態が変わり、布団ではなくベッドや介護者が必要だと判明することも。その場合はまずは家に帰ってもらい、その後、本人とも相談しながら環境調整をしていきます。

 ちなみに一軒家では、2階にご自身の寝室があるケースが多く、介護ベッドが寝室に入らず、結果リビングに入れることも多いのですが、そもそもリビングに介護ベッドを入れることに抵抗感がある患者さんやご家族がいます。

 でも見方を変えれば、リビングは家族が集う場所。自然と患者さんの周りに家族が集まり、患者さんも一緒にテレビを見たり、食事の時間を共にできる。患者さんとご家族が一緒に過ごす時間が増えることにつながります。「最初は抵抗感があったけど、リビングのベッドでよかった」と話すご家族も多いです。

 以前、こんな患者さんがいました。骨髄異形成症候群と慢性心不全を患う75歳男性で、奥さまはパーキンソン病で施設に入所中。大学生のお孫さんと2世帯住宅に同居していました。

 ご本人は元会社経営者で、自分の意見をしっかり意思表示される方。それだけにご本人やご家族の意見を聞きながら「環境調整」を進めました。

 日常生活を送る上での基本的な動作(ADL)のレベルは、歩行時は杖、距離が長くなると車椅子を使い、トイレでは見守り、シャワー浴では介助が必要といったレベル。限られた時間の中、ケアマネさんに急ぎで介護保険の区分変更の認定調査の依頼をお願いしたり、介護ベッドの即日の導入をしたりと慌ただしい環境調整となりました。

 1カ月で旅立たれたのですが、最期は次女も泊まり込み、ご家族に見守られながら息を引き取られたのでした。スムーズに自宅の療養環境が整えられたため、本人の希望の「最期は自宅で」をかなえられた。1カ月間、家族でたくさん話をする時間を持てたのです。

 このように、たとえ自宅で過ごす時間が短かったとしても環境調整は患者さんとご家族にとっては大切な心の整理にもなるのです。

 当院では、「いつでも、どんな状態でも、退院し、家に帰れます」と常に言っています。入院中の方は、今はコロナ禍で家族の面会も思うようにできないでしょう。もし自宅に帰りたい意思があるなら、主治医や病院の退院支援室などにぜひ相談してみてください。

下山祐人

下山祐人

2004年、東京医大医学部卒業。17年に在宅医療をメインとするクリニック「あけぼの診療所」開業。新宿を拠点に16キロ圏内を中心に訪問診療を行う。

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