町医者だからこそ、地域の在宅がん患者に対してできること

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エビデンスのあるがん補助治療を気軽に受けられる場所を提供したい

 厚労省発表の「患者調査」(2017年)によると、入院を含めてがんの治療を継続的に行っていると見られる総患者数は約178万人。一方、全国のがん診療連携拠点病院の数は451カ所。1カ所で3946人のがん患者さんの検査や治療を受け持っている計算だ。

 ただでさえ忙しいこうしたがん拠点病院では近年、働くがん患者が目立つようになった。厚生労働省の「国民生活基礎調査」によると36.5万人(男性15.4万人、女性21.1万人)に上る。 

 働くがん患者が辛いのは検査や治療に割ける時間や医療機関に制約があり、地元の医療機関に行く時間帯や曜日が集中しがちなこと。そのため働くがん患者は毎日でもがんと闘いたい気持ちを抑えつけ、病院に決められた検査と治療の日を不安を抱えながら待ち続けるしかない。それががん患者の現状だ。

 そんながんと闘う患者さんに対して町医者だからこそできることはないのか。

 むろん、がん治療の専門スタッフが揃ったがん拠点病院のような最新の知見に基づく治療は難しい。しかし、がん拠点病院が手掛けるがんの3大標準治療の効果をアップさせる補助療法でなら闘うがん患者さんの手助けができるのではないか。

志水清紀院長
志水清紀院長(提供写真)
ハイパーサーミア療法なら安い費用で何度でも

「そう思っていたところ出合ったのがこのハイパーサーミア療法です。がん細胞は42.5度以上の熱を与えると、正常細胞のように周囲の血管を膨らませて血流を増やし、細胞を冷却することができません。そのため、がん細胞だけが死滅する。それを利用したがん治療法です。がん種に関わらず効果があり、患者さんはからだの奥深くにできたがん細胞の塊を熱するために高周波でジュール熱を発生する電極の間のベッドに40分ほど横たわるだけ。副作用はほとんどありません」

 こう言うのは「志水医院」(大阪府豊中市)の志水清紀院長だ。

 その効果は抜群で、熱が直接がん細胞にダメージを与えるだけでなく、熱によって自身の免疫細胞が活性化してがん細胞を攻撃する。しかも、抗がん剤のがん細胞への取り込みが増え、放射線の増感作用が働くことがさまざまな研究・治療経験により証明されている。

 欧米ではがんの標準的治療法のひとつに採用されている国もあるという。

「日本でも一部のがん治療医の間でその効果が認められ、実績を挙げている医療機関もありますが、一人のがん患者さんにかかる治療時間が準備を含め60分程度かかる。これでは大勢の患者さんが詰めかけ、時間とスタッフに制約があるがん拠点病院では手が回らない。ならば地域のがん患者さんのために私の医院でハイパーサーミア療法を始めようと考えたのです」

 志水医院のある大阪府豊中市は人口40万人を抱え、大阪、堺、東大阪に次ぐ大阪府第4の都市。がん年齢といわれる40歳以上が24万6818人で全体の6割を占める。

 がん患者の数も少なくなく、市立豊中病院が公表しているがん登録は2024件(2014年)に上る。部位別では大腸(552件)、胃(302件)に次いで志水院長が専門の前立腺(155件)となっている。

「そのがん患者さんの主治医と連携しながら前立腺がんはもちろんですが、あらゆるがんの患者さんの治療の手助けをしたい、と考えています。それはがん患者さんの孤独な心を癒やすことでもあると考えています。というのもさまざまな患者さんに接してきた経験から、患者さんは治療すること自体が励ましになり、前向きに生きる力になっていると感じるからです。がん拠点病院では効果も強いが副作用も強い治療法を使うのでどうしても治療間隔を空けざるを得ません。その間、がん患者さんは不安になる。その治療効果をアップさせるエビデンスのしっかりしたがん補助療法を受けられる場所があれば、患者さんの不安も軽減できると思うのです。ハイパーサーミア療法は公的保険の対象で費用も安いうえ、副作用がほとんどないので何度受けても問題が起きることはありません」

 ハイパーサーミア治療機は安い治療機ではない。なぜ導入したのか。

「私は、小中高と豊中市の公立学校に通い、地元で育ってきました。医師を目指したのは九州で開業していた祖父の影響を受けたからで、医大に入学した当初から地元の開業医として働くことを目指してきました。一時は臓器移植をする外科医にも憧れましたが、途中で患者さんとじっくり向き合う内科医に転進。いまは腎臓と泌尿器科を専門とした内科医として働いています。そこで腎臓や前立腺などのがんで苦しむ患者さんをたくさん診てきました。ハイパーサーミア療法で少しでも地元のがん患者さんを救う手助けができれば、と思うのです」

 ちなみに志水院長は日本がん治療認定医機構のがん治療認定医でもある。

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