Dr.中川 がんサバイバーの知恵

riceボーカル櫻井有紀さんが喉頭がんの発症告白 早期なら放射線30回で完治

櫻井有紀のツイッターから
櫻井有紀のツイッターから

 声帯は、声を出すのに重要な器官。そこにがんができたとブログで告白したのが、バンド「rice」のボーカル櫻井有紀さんです。

「この度喉(声)の不調の為、7.20(火)に全身麻酔下での喉頭微細手術(病理検査の為の生検手術)を受け、本日7.21(水)付けで『喉頭癌』と診断されました」

 ブログによれば、喉頭(右声帯)のみの診断で転移を調べるための全身検査があるとのこと。それでも医師に「早期発見の部類ではないか」と言われたようなのが、何よりでしょう。

 喉頭がんは、発生部位によって声門がん、声門上部がん、声門下部がんに分かれます。そのうち声門がんが半数以上で、最多です。

 声門がんは声帯にできるため、早期から嗄声という声がかれる症状がでやすいのが特徴。声がかれるといってもさまざまで、低いガラガラ声、雑音が入ったザラザラした声、息が漏れるような声など。そういう症状があり、早期に発見されやすいのです。櫻井さんはまだ検査の途中ですが、右声帯の検査から、声門がんなのだと思います。

 異常に気づいたら、耳鼻科へ。まずファイバースコープを鼻から挿入して、「エー」などと発声したり、頬をふくらませたりしながら喉全体をチェックします。がんが疑われる病変があるときは、その一部を採取。病理検査を行います。櫻井さんは全身麻酔でしたが、病院によっては外来で局所麻酔で行うことも可能です。

 転移がなければ、治療は放射線でほぼ完治します。1回数分の照射で30回ほど。外来で照射することができるため、治療と仕事の両立もしやすいでしょう。照射部位は炎症を起こし、痛みがありますが、鎮痛剤や軟膏でよくなります。

 ほかにレーザー治療、抗がん剤を組み合わせた化学放射線、手術がありますが、手術は放射線後に再発したり、化学放射線でも治療が困難なケースなど最終手段。声帯の切除は生命に影響を及ぼしませんが、生活の質を大きく左右します。声を失ったつんく♂さんのがん告白は、世間を驚かせました。

 たばこの影響というと肺がんをイメージするかもしれませんが、喫煙者のがん死亡リスクは喉頭がんが最大。たばこを吸わない人を1とすると、喉頭がんは32.5倍。肺がんは4.5倍ですからその差は歴然。とにかくたばこの影響が強く、喉頭がんでたばこを吸わない人をほとんど見たことがありません。

 声門上部がんは、異物感や飲食物をのみ込んだときの痛みなどがみられますが、風邪と勘違いして発見が遅れやすい。声門下部がんも進行するまで症状が出にくく、発見が遅れがちです。たばこをやめた人も含めて喫煙者は、嗄声や喉の違和感に注意してください。

 ファイバースコープに触れましたが、胃の内視鏡検査でカメラが食道の手前にくると、咽頭や喉頭も見えます。ですから胃カメラのときに咽頭と喉頭のチェックもお願いするといいでしょう。

中川恵一

中川恵一

1960年生まれ。東大大学病院 医学系研究科総合放射線腫瘍学講座特任教授。すべてのがんの診断と治療に精通するエキスパート。がん対策推進協議会委員も務めるほか、子供向けのがん教育にも力を入れる。「がんのひみつ」「切らずに治すがん治療」など著書多数。

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