進化する糖尿病治療法

食事制限にトライしてもうまくいかない人の4つの共通点

写真はイメージ
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 糖尿病の食事制限を何度も失敗している人には、いくつかの共通点があります。

【『何の不調もないから治療の必要がない』と考えている】

 糖尿病の大いなる誤解が、これ。糖尿病の治療を途中でドロップアウトしてしまった人の、受診中断の理由としてもよく挙がります。「いま通院しなくても大丈夫だと思う」「食事制限をしたり薬を飲んだりする必要性を感じない」といった声もあります。

 こういう声を聞くたびに、糖尿病がどんな病気であるかを知ることが治療の第一歩であり、モチベーションを上げる必要不可欠な手段、と改めて感じます。

 糖尿病の症状である喉の渇き、多飲、多尿、足のしびれ、体重減少、疲労感、目のかすみやまぶしさ、風邪などの感染症にかかりやすくなった……といったものは、かなり血糖値の高い状態が、ある程度の期間続かないと出てきません。

 逆に言えば、これらの症状が出てきたら、放置すると命の危険にかかわってくるので、すぐに病院に行かなければなりません。

 糖尿病は、基本的に「不調がない病気」。食事制限や運動、薬の服用によって、不調がない状態を維持し、合併症が発症するのを防ぐのです。

【主治医から指示や注意がないから、いまの食事で大丈夫だと思っている】

 これは主治医にも問題があるわけですが、自分の体を守るのは自分。糖尿病が進行し、ある段階を超えると、治療をしても元の健康な状態には戻れなくなります。できるのは、進行スピードを遅らせることだけ。

 糖尿病の合併症で腎機能が低下して人工透析を受けるようになると、自由に使える時間がぐっと減ります。心筋梗塞を発症してしまうと、その後の運動にも制限がかかります。網膜症で失明したり、足の壊疽で切断となったりすると、生活の質(QOL)が下がるのは容易に想像がつきますよね。主治医の指示や注意がないからといって、食事制限などをなおざりにしていれば、将来、合併症に苦しむ可能性が高くなります。

【薬を飲めばOKと思っている】

 ちょっと太ったかなと思いつつ病院へ行くと、主治医から「今日はHbA1cが高いですね。薬出しますね」と言われた。だから、「太っても薬を飲めばOKなんだ」と思ってしまう……。これもよくあるケース。

 薬物治療は、食事制限や運動といった生活習慣改善とセットです。糖尿病という病気の理解が不十分だから、こういった誤解が生じるのでしょう。前項と同様、医療側の問題点を反省しつつ、患者さん側においては、自分の身は自分で守るために、自ら糖尿病の情報収集に動いてほしいと思います。

【テレビや雑誌の影響を受けやすい】

「ビタミンCが免疫力を向上し、病気を予防するとテレビでお医者さんが言っていた。だから、毎食、みかんやグレープフルーツを食べているんです」

 急に血糖コントロールが悪くなった患者さんに話を聞くと、こういう言葉がよく返ってきます。「腸内環境を良くして免疫力を上げるためにヨーグルトを毎日食べている」といった話も多いですね。

 健康な人が嗜好品として程よい量を取る分にはいいですが、病気予防のために特定の食品を過剰に取るのは、メリットより、デメリットの方が大きいです。

 免疫力を上げるという意味では、バランスの良い食事、適度な運動、適度な睡眠に勝るものはありません。

 繰り返しになりますが、正しい理解が、正しい治療に結びつく。コロナ禍で数は減っているものの、糖尿病の理解を深めるための市民講座などもありますし、病院には病気についてやさしく書かれた冊子もあります。それらを利用するのも手です。

坂本昌也

坂本昌也

専門は糖尿病治療と心血管内分泌学。1970年、東京都港区生まれ。東京慈恵会医科大学卒。東京大学、千葉大学で心臓の研究を経て、現在では糖尿病患者の予防医学の観点から臨床・基礎研究を続けている。日本糖尿病学会、日本高血圧学会、日本内分泌学会の専門医・指導医・評議員を務める。

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