人生に勝つ性教育講座

ニーチェを「神を否定する哲学者」に変えた病魔とは?

フリードリヒ・ニーチェの著書「善悪の彼岸」

 ニーチェは44歳の頃の著作から誇大妄想的な表現が見られるようになり、翌年に往来で騒動を起こして警察に拘留されます。拘置所から知人に送った手紙には、「私はインドにいた頃は仏陀であり、ギリシャではディオニュソスだった。……アレクサンダー大王とカエサルは私の化身であり、ナポレオンだったこともある」などと書いてあったそうです。心配した友人が精神病院に入院させますが、その時の診断が「進行性麻痺」で、梅毒だったのでは、というわけです。

 ニーチェは生涯独身を通しますが、友人のパウル・レーに紹介された21歳のルー・ザロメと知り合います。3人は三角関係になり、ニーチェとレーはそれぞれザロメに求婚しますが、どちらもフラれてしまいます。それが引き金になったのかもしれませんが、もともとニーチェは娼館通いをしていて、そこで梅毒をうつされたともいわれています。ちなみに、ザロメは他に何人もの知識人と浮名を流し、別の人物と結婚。死因は尿毒症だったそうです。

 ただ、梅毒にしてはその他の症状が見えないことから脳腫瘍だったのではないか、という声もあります。ニーチェは極度の近眼で若い頃から頭痛などにも悩まされていたそうです。そうした持病に加え、梅毒という病魔が彼の思い切った主張につながったのではないか、とも思うのです。

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尾上泰彦

尾上泰彦

性感染症専門医療機関「プライベートケアクリニック東京」院長。日大医学部卒。医学博士。日本性感染症学会(功労会員)、(財)性の健康医学財団(代議員)、厚生労働省エイズ対策研究事業「性感染症患者のHIV感染と行動のモニタリングに関する研究」共同研究者、川崎STI研究会代表世話人などを務め、日本の性感染症予防・治療を牽引している。著書も多く、近著に「性感染症 プライベートゾーンの怖い医学」(角川新書)がある。

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