病気を近づけない体のメンテナンス

脳<上>脳を活性化させる朝の起床と入浴の方法 廃用性委縮を防ぐ

写真はイメージ
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 体は使っていないと、使わない部位の働きが衰えてしまう。これを「廃用性萎縮」という。

 たとえば、脚を骨折してベッドや車イスでの生活を長く続けていると、骨折が治った後も、うまく歩くことができなくなる。それでも、筋肉量の多い若い人の場合には、リハビリをすれば以前と同じように歩けるようになるが、高齢者の場合にはリハビリをしても再び歩くことができず、そのまま寝たきりになるケースも少なくない。

 これと同じことが脳にも起こる。日本精神神経学会指導医で「保坂サイコオンコロジー・クリニック」(東京都中央区)の保坂隆院長が言う。

「脳には『ニューロン』と呼ばれる神経細胞があり、無数のネットワークとして張り巡らされています。ニューロンは学習や記憶と密接な関係があり、体の筋肉と同じように使用頻度が少ないと衰えてしまいます。脳は70歳を越えても鍛えることができますが、使わなければ20代、30代でも衰え始めます。ダラダラとテレビやスマホを見ているだけで、自分で考えることを放棄すれば、脳はアッという間にサビついてしまうのです」

 そのため、脳も普段からトレーニング(脳を使う・考える)することが大切になる。

 市販の「脳トレ」の書籍やゲームなどを活用するのでもいい。そして、生活習慣にも目を向けよう。つまり、「脳にいい生活習慣」をしているかどうかだ。

 まず、脳を活性化させたいなら、毎朝「早起き」をすること。それは「早寝早起き」が、人間が本来、持っている生活リズムだからだ。ところが、定年退職して仕事を辞めた途端に記憶力や判断力が衰え、中には認知症の症状が表れる人も少なくない。そのような人は、仕事を辞めたことで規則正しい生活が崩れ、早起きしなくなることが多いという。

 人の脳の前頭葉という部分は意思や思考、創造など高次精神機能と強い関係があり、使わないとすぐにサボるようになる。ルーズな生活を送るようになったり、仕事にも関わらなくなると、記憶力や判断力が衰えるのはそのためだ。前頭葉の働きを衰えさせないためには、できるだけ早起きを心掛けるべきだという。

「ただし、『早起き』と『いきなり起き』は違うので注意してください。『いきなり起き』とは、目が覚めたら、いきなり起きて行動し始めることです。自動車にたとえると、エンジンが温まっていないのに高速道路を全開で飛ばすのと同じです。起きたばかりの脳には酸素も栄養も不足しています。その状態でいきなり行動し始めると、脳は準備不足のままフル回転することになり、トラブルのもとになります」

 そこで、朝目覚めて、ベッドや布団から出る前に、次のような準備運動をして血の巡りをよくすることを勧めるという。

■起床前の準備運動

①あおむけに寝た姿勢で腕を軽く伸ばし、手首から先を10回ほど振る
②寝たままの姿勢でゆっくり膝を立て、その状態で膝をゆっくり回す。左回りと右回りを10回ずつ行う
③ゆっくり起き上がり、四つんばいになる。手足をベッドに対して直角に立て、視線を前方上に向け、息を大きく吸いながら胸を前に突き出すようにして背中を反らす
④四つんばいのまま息を吐きながら首を下げ、自分のヘソをのぞき込むように背中を丸める
⑤ここで③に戻り、④と交互に数回繰り返す
⑥四つんばいのまま背中を伸ばし、深呼吸をしながら、首をゆっくり左右に大きく振る。自分のお尻をのぞくようにする
⑦四つんばいのままで、できるだけ姿勢を低くし、全身の力を抜いて10秒ほどその姿勢を保ち、終了する。

 朝風呂の習慣も脳を活性化させるという。

「朝は体温が低く、血流も鈍くなっています。この状態では脳は活発に働いてくれません。そこでお風呂に入り、脳が活性化するまで体温を上昇させるのです。ただし、熱いお風呂は厳禁です。お風呂の温度は普段よりぬるめにします。そして、時間に余裕があったら、最初の2~3分は腰までつかり、次第に全身を湯に浸していくようにします。このように、ゆっくり時間をかけて入浴すると全身の血流がよくなり、脳に大量の酸素とエネルギーが運ばれるようになります」

 朝は忙しい……というなら、せめてシャワーだけでもいい。重要な会議や試験があるときだけ、朝風呂に入るのでもいい。

 また、最新の研究によって「脳がフル回転するのは食事を取ってから2時間以降経過してから」ということが分かってきたという。仕事の始業時間から逆算して2時間前までに朝食を取ろう。

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