上皇の執刀医「心臓病はここまで治せる」

「噛む力」は心臓にかかる負担の大きさに関係している

天野篤氏(C)日刊ゲンダイ

 また、われわれが噛む動作をするときは、咀嚼筋だけでなく、舌、口蓋、喉、咽頭などさまざまな筋肉が動きます。噛むことでそうした筋肉が緩むと副交感神経の働きが高まり、心拍数を上げたり血圧を上昇させるストレスホルモンの過剰な分泌が抑制されることもわかっています。一定の間隔で噛むリズムが、副交感神経を優位にするという意見もあります。

 さらに、副交感神経とは関係なく、噛む力が弱くなると食べ物をうまく噛み砕けなくなるため、野菜や肉、魚介類といった硬いものを避け、糖質が多く含まれた軟らかいものを選んで食べるようになる。そうした食生活の変化が動脈硬化を促進して、心臓疾患の発症リスクが高まるという見方もあります。

 噛む力は歯の本数と関係していることも考えられます。65歳以上の日本人2万人以上を対象に4年間追跡した調査では、歯が20本以上残っている人の死亡率に比べ、10~19本の人で1.3倍、0~9本の人で1.7倍上昇したと報告されています。歯が多く残っている人ほど認知症や転倒のリスクが低いこともわかっていて、心臓疾患との関連も指摘されています。

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天野篤

天野篤

1955年、埼玉県蓮田市生まれ。日本大学医学部卒業後、亀田総合病院(千葉県鴨川市)や新東京病院(千葉県松戸市)などで数多くの手術症例を重ね、02年に現職に就任。これまでに執刀した手術は6500例を超え、98%以上の成功率を収めている。12年2月、東京大学と順天堂大の合同チームで天皇陛下の冠動脈バイパス手術を執刀した。近著に「天職」(プレジデント社)、「100年を生きる 心臓との付き合い方」(講談社ビーシー)、「若さは心臓から築く 新型コロナ時代の100年人生の迎え方」(講談社ビーシー)がある。

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