科学が証明!ストレス解消法

ストレスにならない適度な運動が「仕事力」を高める

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写真はイメージ(C)日刊ゲンダイ

 学術・文化面と武術・軍事面との両面に優れていることを意味する文武両道――。

 古くはアリストテレスから、自然科学、政治学、文学を学び広大な帝国を築いたアレキサンダー大王、武芸全般に秀で、茶道、和歌など芸能にも精通した細川幽斎らが、この言葉に該当する人物の代表格でしょう。

 皆さんの周囲にも文武を両立させている人はいるのではないでしょうか? 例えば、「ジョギングが趣味の○○さんは何かと仕事ができるなぁ」「ヨガを続けている△△さんは、いつもスマートに物事を進めるなぁ」という具合に、仕事と運動を両立させている社会人は少なくないですし、適度な運動をしている人は仕事もできる。そんなイメージがあります。

 そもそも運動をすると、血流が良くなります。酸素は血液によって運ばれますから、運動で脳により多くの酸素が届けられ、結果、脳の働きが良くなる。つまり、文武は互いに無関係ではないといえるんですね。

 その上で覚えておいてほしい科学的エビデンスがあります。ハンブルク大学のホティングらは運動と記憶の関係を調査する研究(2016年)を行っているのですが、これがとても興味深い。ホティングは、エアロバイクを30分間、「比較的ハードにこいだグループ」と「軽くこいだグループ」、そして「何もせず座っていたグループ」の3つに分けた上で、外国語の単語を暗記してもらうという実験を試みました。

 20分後、24時間後、2日後にそれぞれテストを行ったところ、運動をしていた2つのグループは、何もしなかったグループより成績が良く、特に軽くこいでいたグループが最も単語を覚えていた結果が明らかになったそうです。

 なぜ、ハードにこいだグループより、軽くこいだグループの方が成績が良かったのか?

 面白いことに、激しい運動をしたグループは、神経細胞の発生や成長、維持や再生を促すBDNF(脳由来神経栄養因子)と呼ばれるタンパク質が増えた一方、ストレスホルモンであるコルチゾールも上がってしまったそうです。

 ハードな運動は、当然負荷もかかりますから、アスリートでもない限り、自分を追い込むほどの運動はかえって逆効果ということが示されたのです。ストレスにならない適度な運動こそ、脳を効果的に働かせる名コーチ。むやみやたらに運動すればいいというわけではないのです。

 また、イリノイ大学のチャドック・ヘイマンらの研究チームは、運動をすると脳の「白質」と呼ばれる部位の機能が強化されることを明らかにしています。

 白質は、主に情報伝達を担うケーブルの集合体ともいえる存在で、最近の研究では「数学的な能力」との関連が判明しています。

 白質の強化には、本格的な運動は必要ないとされ、子供のときにルーティンとして適度な運動、例えば縄跳びのような運動を取り入れることが望ましいといわれています。

 定期的な適度な運動こそ、文武両道への近道。ほんの少し体を動かすだけで、明日の仕事のはかどり方が変わってきますよ。


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堀田秀吾

堀田秀吾

1968年生まれ。言語学や法学に加え、社会心理学、脳科学の分野にも明るく、多角的な研究を展開。著書に「図解ストレス解消大全」(SBクリエイティブ)など。

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