あなたを狙う「有毒」動物

ブヨに刺されたら…唾液を吸い出し、水で洗い流し、冷やす

刺されたら、ポイズンリムーバーで毒を吸い出すこと
刺されたら、ポイズンリムーバーで毒を吸い出すこと

 ブヨと蚊でどちらが痒いかと問われたら、私は断然ブヨ派です。多くの文献にも「ブヨのほうがはるかに痒い」と書かれているので、間違いないでしょう。

 ちなみに呼び方ですが、東日本ではブヨが一般的です。私は関東の出身なので、ここでもブヨを使わせてください。一方、関西では「ブト」と呼ぶそうです。私の大学の学生たち(大半が関西圏の出身)に確認したところ、やはりブトが多数を占めていました。なお、医学や生物学では「ブユ」が正しい呼び名になっています。

 ブヨに刺されると、痛痒い腫れが数日間から1週間以上も続きます。ただし実際には「刺す」のではありません。皮膚をかじって穴をあけ、滲み出てきた血をすするのです。そのためブヨに咬まれた後は、血が1~2滴垂れることがよくあります。

 また腫れの中心には、必ずかじられた痕(カサブタ)が残ります。超極細の針で、気づかぬうちに血を吸って逃げていく蚊のほうが、やり方としてはずっと洗練されていると言っていいでしょう。蚊は頭脳犯、ブヨは粗暴犯といった感じです。

 1960年代まで、ブヨは全国的に生息していて、梅雨時から8月一杯まで人々を悩ませ続けていました。しかし1970年代を境に全国で激減。いまでは山奥の水辺などでしか見かけません。

 というのも、彼らの幼虫は清流でしか暮らせないからです。少しでも水質が悪化すると、姿を消してしまいます。国交省の「生物学的水質判定」の指標生物に指定されているほどです。サワガニやトンボのヤゴなどとともに、水質Ⅰ級(きれいな水)の指標生物になっています。ちなみにⅡ級(ややきれいな水)にはゲンジボタルが属しています。ブヨは、ホタルよりも水質に敏感なのです。

 古い資料を調べていくと「成城足」という言葉に行き当たりました。1950年代、東京都世田谷区成城において、当地の大学や短大に通う女学生の足に特徴的な赤い発疹が多く見られたというのです。その原因がブヨでした。つまり夏になると、女学生たちがよくブヨに刺されて、近隣の皮膚科を頻繁に受診していたわけです。

 そこで地図を確認すると、成城地区は多摩川の支流である野川と仙川に挟まれた土地であることが分かります。その地で生まれ育った知り合いに聞いたところ、野川も仙川も、60年代まではホタルが普通に飛び交っていたそうです。それより前の50年代なら、文字通りの清流だったことでしょう。つまり2つの清流に挟まれた土地だったからこそ、女学生たちが「成城足」に悩まされていたわけですし、都内にもそんな場所が残っていた証拠にもなります。

■唾液には鎮痛作用がありかじられてもすぐには気づかない

 ブヨによる痒みの原因は、彼らの唾液に含まれるタンパク質成分によるアレルギー反応です。ブヨの唾液には、鎮痛作用の成分が含まれているため、刺されても(かじられても)すぐには気づきません。また傷口からの出血が止まらないように、血液凝固を阻止する成分も含まれています。それらに対するアレルギー反応で、痒くなるのです。その点、蚊刺症と共通しています。

 痒みの感じ方は体質や年齢によって違ってきますが、人によっては中心に水ぶくれを持つ大きな発疹ができることもあり、掻きつぶすとますます治りが悪くなります。刺されたときの応急処置は、ポイズンリムーバーで毒(ブヨの唾液)を吸い出すこと、きれいな水で洗い流すこと、冷やすことなどです。

 刺されてすぐに43~45度のお湯で温めるという説もあります。熱で毒が失活するため、痒みがある程度抑えられるという理屈です。しかしすでに赤く腫れた状態で温めると、かえって炎症がひどくなるので、あまりやらないほうがいいかもしれません。

 ブヨは暑さに弱いため、いまの時期は日中は活動せず、主に朝夕の涼しい時間帯に飛び回ります。大群を作る習性があり、群れに襲われると全身を何十カ所も刺されることがあります。そうなると単に痒いだけでなく、リンパ管炎といって、手や足のリンパ管に沿って赤いミミズ腫れが生じたり、リンパ節炎(膝、鼠径部、脇などのリンパ節が大きく腫れる)を起こすこともあります。

 キャンプ場などブヨがいそうなところに行く際は、とくに朝夕は皮膚をできる限り露出しないようにし、虫よけスプレーで防御を固めておくことが肝腎です。またブヨは黒っぽい色を好み、白など光を反射する明るい色は苦手と言われていますから、服の色にも注意したほうがいいでしょう。

永田宏

永田宏

筑波大理工学研究科修士課程修了。オリンパス光学工業、KDDI研究所、タケダライフサイエンスリサーチセンター客員研究員、鈴鹿医療科学大学医用工学部教授を歴任。オープンデータを利用して、医療介護政策の分析や、医療資源の分布等に関する研究、国民の消費動向からみた健康と疾病予防の解析などを行っている。「血液型 で分かるなりやすい病気なりにくい病気」など著書多数。

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