Dr.中川 がんサバイバーの知恵

コロナ禍でのがん治療の遅れを回避するため医師に聞くべきこと

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写真はイメージ(C)日刊ゲンダイ
神奈川は入院・手術の一時停止を要請

 新型コロナウイルスの感染者が急速に広がり、各地で医療提供体制が逼迫しています。そんな状況から神奈川県の黒岩知事は6日、コロナ病床を確保するため、緊急性の低い入院や手術を一時停止するよう病院に要請しました。

 昨年の第1波では、院内感染が相次ぎ、病院での感染を恐れて受診を控える人が続出。今回は自治体の要請による治療の延期ですが、理由はどうあれ、治療の延期は死亡率を高めることが分かっています。

 昨年11月に報告された大規模調査では、膀胱がん、乳がん、結腸がん、直腸がん、肺がん、子宮頚がん、頭頚部がんの7種類について、治療が遅れたグループと遅れていないグループを比較。手術は4週間遅れると、死亡リスクが6~8%上昇していることが明らかになっています。

 ほかの治療についても同様で、膀胱がんの術前化学療法の遅れは24%、乳がんの術前化学療法が遅れると28%、それぞれ死亡リスクが上昇しました。放射線は、頭頚部がんへの根治的放射線療法で9%、子宮頚がんへの術前放射線療法で23%の死亡率上昇です。

 読売新聞の調査によると、昨年は全国のがん診療拠点病院のうち8割でがんの手術件数が減少。2割は、減少幅が10%を超えたそうです。

 私が所属する東大病院も、国立がん研究センターも、胃がんの手術は4割以上ダウン。コロナによる検査の受診控えで、胃カメラ検査を受けない人が相次いだことが原因と思われます。

 がん患者の就労を支援する「CSRプロジェクト」は昨年、診断から5年以内のがん患者310人を調査。40人が、受診や検査、治療を中断・延期していました。その理由は、「自己判断」が15人で、「患者仲間の助言」が2人です。

 こうしてみると、治療の遅れだけでなく、診断の遅れも、結果として死亡率を高めることが分かるでしょう。不安が増大するパンデミック禍では正確な情報が伝わるとは限らず、自己判断や仲間のアドバイスなど不確かな情報で誤った結論を導いている現実も垣間見えます。

 その影響がどうなって表れるか。コロナ前に比べて、進行がんが見つかる人やがんで亡くなる人が増えるのは、間違いないでしょう。

 コロナによる死者数は昨年1年で3500人ほどですが、1年間にがんと診断される人は100万人を超え、死亡は約38万人。がんの死亡数は、コロナの死者数の100倍以上です。

 コロナによる死亡は80歳以上が63%ですが、働く人の死因は半数ががん。病死に限ると、9割ががんです。コロナ対策をしつつも、現役世代の命を守る上で、がん対策は絶対に欠かせません。

 その状況で、入院や手術の延期を提案されたらどうするか。主治医に「私の病状は、コロナ前でも治療を先送りしましたか?」「治療が遅れると、死亡率が上がりますか?」と併せて聞いて、「上がります。しかし、コロナ対応で延期せざるを得ません」という答えなら、セカンドオピニオンを受けるか、病院を変更する選択も大いにアリだと思います。

中川恵一

中川恵一

1960年生まれ。東大大学病院 医学系研究科総合放射線腫瘍学講座特任教授。すべてのがんの診断と治療に精通するエキスパート。がん対策推進協議会委員も務めるほか、子供向けのがん教育にも力を入れる。「がんのひみつ」「切らずに治すがん治療」など著書多数。

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