最期は自宅で迎えたい 知っておきたいこと

ステーキとワインで家族と忘年会…在宅だからできたこと

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写真はイメージ(C)PIXTA

 将来の自分の死に場所はどこですか?

 こう問われたら、みなさんはなんと答えるでしょうか。恐らく病院と答える方が多いのでは。実際に現在、亡くなられる方の約8割が病院で看取られています。しかし、1950年代以前は、逆に自宅で看取られる方が8割でした。昔はみんな自宅で亡くなっていたのです。

 特に年配の方なら、自分が幼少の頃に自宅でおばあちゃんやおじいちゃんを看取った経験をお持ちの方が多いはずです。

 それが70年代を境に日本の看取りの現場が、自宅から病室へと変わっていきました。人の死が日常生活から抜け落ち、命の儚さや大切さを自宅で学べるせっかくの機会を失ってしまったのです。

 そしていつしか看取りは病院でという常識が定着していきました。日頃から自分や家族の終末期について考えることなく、在宅医療の知識もなければ、自宅で最期を迎えるのは難しいと感じるのも無理はありません。好むと好まざるとにかかわらず選択肢は病院だけとなるわけです。 

 しかし現在、超高齢化社会を迎え、社会保障費の高騰という問題が生じたことから、国はその対策として「地域包括ケアシステム」を推進し、在宅医療の普及に注力。看取りの場を再び自宅へ戻そうとしています。

 そんな入院と在宅との間で迷われていた患者さんのご家族がいらっしゃいました。

 その患者さんは79歳の膀胱がん末期の男性。自宅はご夫婦の住まいと息子さんの仕事場を兼ねており、昼間は息子さんがいるが、夜になると夫婦2人きり。本人は病院嫌いで自宅で過ごしたいが、体調が急変すると奥さまがパニックになって救急車を呼んでしまうこともあったそうです。

 私たちの在宅医療が始まったのは、年末が近づいてきた頃。奥さまには「旦那さんの意識が朦朧とし、自分の手に負えないとなった時は、いつでも私たちに連絡してください。お正月でも構いません。すぐに対応します」と丁寧に説明し、安心してもらいました。

 新年をご家族で迎えられた元日に、頂いた言葉が印象的でした。

「聞いてください、先生」と患者さん。

「昨日はヒレステーキと赤ワインで家族で忘年会をやりましたよ。家族にお疲れさまって言ってね。ヒレステーキ半分は食べましたね。赤ワインも1杯飲んで」

 そして奥さまが、「こんなの(在宅医療)があるの知らなかった。先生は暮れもお正月もなくて大変ね。主人が帰ってきてすごく明るくなって、先生のおかげです。本当によかった」

 それから1カ月余りで、この患者さんは旅立っていきました。

 昔のように、自宅で最期の時間を過ごすことが当たり前になればよいと、切に願っています。

下山祐人

下山祐人

2004年、東京医大医学部卒業。17年に在宅医療をメインとするクリニック「あけぼの診療所」開業。新宿を拠点に16キロ圏内を中心に訪問診療を行う。

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