新たな血液がんの治療法として注目されているのが、「CAR-T(カーティー)療法」だ。2019年に国内初のCAR-T療法製剤が承認され、今年3月には3剤目が承認された。20年3月からCAR-T療法を行う駒込病院のCAR-T療法責任者、大橋一輝副院長に話を聞いた。
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私たちの体には、がん細胞や病原体など異物を攻撃する免疫機能が備わっている。その中心的役割を果たすのが、リンパ球、顆粒球、単球といった白血球だ。
「リンパ球には、T細胞、NK細胞、B細胞などの種類があり、このうちT細胞を改変したCAR-T細胞を用いるのがCAR-T療法です」
T細胞には、がん細胞を直接攻撃して死滅させる働きがある。しかし、がん細胞の中には、T細胞が「がん細胞」と識別できないものがあり、それががん発症につながる。
「そこでCAR-T療法では患者さんからT細胞を取り出し、遺伝子医療によってCARというタンパクを作り出せるようにします。このCARが、がん細胞の表面にある抗原を認識し、攻撃するのです」
CAR-T療法の流れは、まず患者から白血球を採取。それを専門施設へ輸送し、CARを作り出すCAR-T細胞を作成。治療に必要な量まで増やしたら、駒込病院などCAR-T療法を行う医療施設へ輸送。
一方、患者は白血球採取後、抗がん剤治療や放射線治療でがんの症状を安定させ、CAR-T細胞が体内に生着しやすいように、リンパ球除去化学療法を受ける。ここまででだいたい6~8週間。そして、CAR-T細胞の投与となる。輸血と同じ方法で、投与は1回。30分以内で終わる。
「投与後に、CAR-T細胞が体内で増加。腫瘍の量が少ないほどCAR-T療法の効果は高く、血圧低下や意識障害といった副作用が起こりにくいので、CAR-T療法の前の腫瘍量のコントロールは重要。CAR-T細胞は体内に残るので、治療後も定期的な検査が不可欠です」
■通常の免疫機能では対処できない難治性のタイプが対象
CAR-T療法で承認されている3製剤はすべて血液のがんである「悪性リンパ腫」が対象。肺がんや大腸がんといった臓器や組織にできる固形がんは対象ではない。
悪性リンパ腫の中でも、「再発または難治性の大細胞型B細胞リンパ腫」「急性リンパ芽球性白血病」「再発または難治性濾胞性リンパ腫」と対象疾患が決められている。3製剤で、対象疾患はやや異なる。対象疾患に該当しても、必須条件がいくつかある。さらにそれらをすべて満たしても、CAR-T療法が受けられない人もいる。
「これまでのヘビーな治療で白血球が採取できない患者さんもいますし、白血球を採取してから治療開始まで時間がかかるため、症状が急変してしまう患者さんもいます。約1年で三十数例ほどCAR-T療法を行いましたが、対象疾患に該当し必須条件を満たす患者さんで、最終的にCAR-T療法まで行き着くのは、3分の1程度という印象です」
ただし、CAR-T療法の対象となりそうな患者には早くから介入を行うなどで、「CAR-T療法の対象だが、CAR-T療法が受けられなかった」というケースは減らせていけそうだ。
駒込病院では、打つ手がなくなったリンパ腫患者が、CAR-T療法によって完全寛解したケースもある。
「しかし、CAR-T療法を魔法の治療のように捉えるのは適切ではありません。CAR-T療法の条件に合致する人は一部。その一部の人が光明を見いだせる治療です」
保険適用。ただし、薬価が3300万円以上と超高額だ。