コロナ禍の新生活が「難聴」のリスクを高める 30~40代で聞こえづらくなる人も

若くても「聞こえ」が悪い可能性あり(写真はイメージ)/
若くても「聞こえ」が悪い可能性あり(写真はイメージ)/(C)日刊ゲンダイ

 本紙毎週月曜発売号の連載「認知症を予防する補聴器のすべて」でも紹介している通り、難聴は認知症のリスクをかなり上げる。慶応義塾大学病院耳鼻咽喉科の神崎晶医師に話を聞いた。

「難聴に関しては、早ければ30代後半や40代前半から始まっている可能性があります」

 動物実験で、こんな結果が出ている。実験用マウスに大きい音を聞かせると、その時は問題なくても、しばらくすると「聞こえ」が悪くなる。

「これは人間にも当てはまる可能性があり、若い時に大きい音を日常的に聞いていると、音の振動を電気信号に変えて脳に伝える役割をする内耳の有毛細胞が壊れ、早い段階から耳の聞こえが悪くなりやすい。有毛細胞は一度壊れると再生しないので、落ちた聴力は元には戻せません」

 音のボリュームは大きいほど有毛細胞が壊れやすく、またヘッドホンやイヤホンの長時間の連続使用がより有毛細胞を壊しやすくする。新型コロナでオンラインでの会議や打ち合わせが主になり、一日の大半をヘッドホンをつけて過ごす人もいるだろう。これは、確実に難聴のリスクを高める。WHO(世界保健機関)は、イヤホンで大音量の音楽を聴き続ける若者が増えたことから、10億人以上が将来、難聴を抱えると指摘している。

■徐々に進行するため自覚が困難

 隠れ難聴という言葉があるように、聞こえの悪さは少しずつ進むので、自覚しづらい。思っている以上に、聞こえが悪くなっているかもしれない。だとすると、放置してはいけない。

「2020年、世界的に権威のある医学誌ランセットに『認知症の最大の危険因子は難聴』という内容が織り込まれた論文が発表されましたが、それでは認知症対策のためには、45~65歳のうちから難聴を放置してはいけないとしています」

 慶応義塾大学耳鼻咽喉科名誉教授の小川郁氏は、10~99歳の日本人1万681人の聴力を2000~10年と、2011~20年で比較。すると、加齢によって低下する高音域の聴力は、全年齢層において後半は改善したが、低い音域の聴力は40歳以下の若い世代で悪化していた。低音が低下している理由は不明だが、若いからといって「よく聞こえている」とは言えないということだ。

 聴力は、ささいなことにも影響を受ける。WHOが示す一日に許容される音の大きさと時間では、ヘアドライヤーの音は15分が限度。地下鉄車内の騒音も15分だ。雷は3秒、救急車や消防車のサイレンは9秒。ヘッドホンやイヤホンで周囲を気にせず音楽を楽しんでいる場合、ヘアドライヤーの音量より大きい可能性は高い。ちなみに、コンサート会場の音は28秒が限度とされている。

「現代社会は、いともたやすく聴力が落ちると考えた方がいい。意識して耳を傷めない生活を心掛ける必要があります」

 前述の通り、難聴はよほど進まないと自覚しづらく、日常生活でも支障を感じない。だから、「自分は大丈夫」と思いがちだ。しかし、その「本当はちゃんと聞こえていない生活」を続けていると、将来、難聴で生活の質(QOL)が下がり、前出の通り、認知症へとつながりかねない。

「音量を下げ、ヘッドホンやイヤホンを長時間連続して使用しない。こまめに休憩を挟む。可能であれば、ヘッドホンやイヤホンの使用時間を1日1時間未満にする」

 老親の聞こえの程度もチェックしたい。参考になるのが、〈別掲〉の項目だ(編集部作成、神崎医師監修)。

 該当項目があれば耳鼻咽喉科を受診すべき。その後の進行を抑制できる。ひいては、認知症予防になる。

■老親の聞こえの程度チェック


▼ささやき声で話しかけると聞こえにくそう
▼聞こえの問題で喧嘩になることがある
▼ラジオやテレビの音が大きい
▼聞こえの問題で、集まりなどに出たがらない
▼レストランなど人が集まる場所では家族の会話を聞き取りづらそう
▼聞こえの悪さを指摘すると怒り出す

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