上皇の執刀医「心臓病はここまで治せる」

命を守る新型コロナワクチンを安心して接種するための備え

天野篤氏
天野篤氏(C)日刊ゲンダイ

 新型コロナワクチンの接種が進んでいます。新型コロナウイルス感染症の発症や重症化を防ぐ効果があるのは間違いなく、現時点ではウイルスから自分の身を守る最善の手段といえるでしょう。

 一方で副反応の報告が増えているのもたしかで、ワクチン接種後に心血管障害、脳血管障害、血栓症が確認されたケースも見られます。いまのところワクチン接種との因果関係はわかっていません。ただ、ワクチン接種による免疫反応などで高熱が出ることを見ても、一部の方には健康被害に属するダメージを与えている可能性もあります。何分、mRNAタイプの集団接種ワクチンは初めてなので、副反応も手探り状態なのです。一部の方でこれまでは表面化していなかった心臓や血管のトラブルが、ワクチン接種をきっかけに表に出てしまった可能性も考えられます。

 実際、「ワクチン接種後に血圧が上がった」という患者さんが増えています。また、大動脈解離で救急搬送される患者さんも、これまでは1カ月に1件あるかないかだったのが、月2~3件に増えている印象です。大動脈解離は前触れなく血管が裂けて解離し、1度目の発症で突然死する危険がある疾患です。血圧が高く、上行大動脈(心臓から出て上に向かう動脈)が太くなっている人に多く見られます。

 大動脈解離の患者さんが増えているのは、コロナ禍の巣ごもり生活で血圧の管理が不十分になっていることに加え、ワクチン接種による血圧上昇が引き金になっているケースもゼロとは言い切れません。しっかりした調査と解明が必要です。

■前触れなく血圧が急上昇するケースも

 そうはいっても、ワクチンは新型コロナから命を守る有効な手段です。だからこそ、心臓や血管にトラブルが起こる可能性もゼロではないと想定して対策を講じたうえで、ワクチン接種に臨むのが理想的といえるでしょう。

 まずは、心臓ドックなどの検査を受けて、自分の体の基礎データをきちんと把握しておくことが重要です。心臓血管系では、心電図、心エコー、心臓CTの3つの検査で、正常なのか異常があるのかどうかがわかります。これにプラスして頭部MRIで脳血管の状態を確認しておけば安心です。血管トラブルが起こったときに命に関わるのは心臓、脳、大血管ですから、検査を受けて自分がそれぞれどんなリスクを抱えているのかをチェックしておきましょう。

 また、血圧を日頃から定期的に測り、把握しておくことも大切になります。先ほどもお話ししましたが、ワクチン接種後に血圧が上がるケースが多く見られます。病院で計測した場合、「上(収縮期血圧)120㎜Hg未満/下(拡張期血圧)80㎜Hg未満」が正常の範囲です。それが、ワクチンを接種した後の計測で前触れなく上の血圧が180程度、または下の血圧が130程度まで上昇する人が少なくないのです。この数値は、放置しておけば3年ほどで人工透析が必要になるようなレベルです。

 ですから、日頃から血圧を測って数値を把握しておき、ワクチン接種後も含めて上が180、下が110を超えるようなら、すぐに医療機関で診てもらってください。そういう人は、ある日突然、血管や心臓のトラブルを起こす“素養”があるということです。

 心臓トラブルを起こす患者さんは、自分の血圧を正確に把握していないケースがたくさん見受けられます。先日来院された70歳の女性は、「これまで血圧が高かったことはありませんか」と尋ねると、「いつも血圧は正常値です。病院でも自宅でも上は100もありません」とのことでした。

 しかし、血液検査ではBNPの数値が高かった。BNPとは「脳性(B型)ナトリウム利尿ペプチド」と呼ばれるホルモンで、血圧の上昇など心臓にストレスがかかると、それを和らげるために心室から分泌されます。つまり、BNPが高ければそれだけ心臓に負担がかかっている証しです。念のためCT検査をしてみたところ、上行大動脈が太くなっていることもわかりました。

 血圧が高くなければ、BNPが高くなったり上行大動脈が太くなることはまずありません。そこであらためて血圧を計測してみると、「上150/下90」でした。その患者さんは、緊張や興奮などによって血圧が上昇するタイプだったのです。

 こうしたタイプの人は、思わぬきっかけでいきなり心臓トラブルを起こすリスクが高いといえます。ワクチン接種がそのきっかけになってしまう可能性もないとはいえません。新型コロナウイルスから身を守るワクチン接種には、今までの生活習慣病とその自己管理の再点検がセットになっていると考えるべきです。

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天野篤

天野篤

1955年、埼玉県蓮田市生まれ。日本大学医学部卒業後、亀田総合病院(千葉県鴨川市)や新東京病院(千葉県松戸市)などで数多くの手術症例を重ね、02年に現職に就任。これまでに執刀した手術は6500例を超え、98%以上の成功率を収めている。12年2月、東京大学と順天堂大の合同チームで天皇陛下の冠動脈バイパス手術を執刀した。近著に「天職」(プレジデント社)、「100年を生きる 心臓との付き合い方」(講談社ビーシー)、「若さは心臓から築く 新型コロナ時代の100年人生の迎え方」(講談社ビーシー)がある。

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