Dr.中川 がんサバイバーの知恵

コロナワクチンに続き抗がん剤も不足 供給停止が相次ぐ理由

アブラキサンは点滴で(写真はイメージ)
アブラキサンは点滴で(写真はイメージ)/(C)日刊ゲンダイ

 新型コロナウイルスのワクチン不足と同じような事態が、がんの治療薬でも起こってしまいました。アブラキサンと呼ばれる抗がん剤が、今年10月から一時的に供給停止になることが分かったのです。

 原因は、米国の生産工場で不具合が見つかったこと。モデルナワクチンのケースに近い構図で、問題が解決されるまで供給が止まります。その期間は少なくとも4週間。メーカーは出荷調整に入っていて、在庫が切れる10月中旬から供給停止になるとみられます。

 胃がん、肺がん、乳がん、すい臓がんに使われる薬で、国内の使用者は年間4万人。薬の使用を予定しているがん患者さんへの対応が、問題でしょう。

 実はこれ、別の抗がん剤のパクリタキセルをアレンジしたもので、血管からがん病巣へより移行しやすいのが特徴。ベースはパクリタキセルですから、供給停止の間はこちらに切り替えるのが一つの解決策です。胃がん、肺がん、乳がんはパクリタキセルも承認されていますから、その可能性が高いと思います。

 厄介なのが、すい臓がんです。すい臓がんの化学療法で一番に使われる薬の一つがアブラキサンで、その使用割合は4つのがんのうち65%と圧倒的。難治がんのすい臓がんで重要な薬を使えなくなるばかりか、すい臓がんではパクリタキセルが未承認とあって、事態は深刻です。

 日本臨床腫瘍学会など関連学会は合同でメッセージを発表。現在アブラキサンで治療中の患者については①効果があり継続中の人を最優先にする②胃がん、肺がん、乳がんではパクリタキセルに切り替えるなど代替治療を検討する、としています。新規治療については①代替治療が困難なすい臓がんやパクリタキセルへの切り替えが困難な人を優先する②胃がん、肺がん、乳がんでは、代替治療を検討する、ことになります。

 米国内で、薬の供給停止はありません。英国も供給が続いていて、ストップするのは日本と豪州です。その豪州は、今回の対応策として来年1月31日まで別の工場で製造された製品の輸入と販売を認める措置を取っているようです。日本も豪州の臨時措置を見習うべきでしょう。

 コロナワクチンや抗がん剤で、なぜ同じような供給停止が続くのでしょうか。米国内では、不具合が見つかった工場のほかにも、この薬を製造する工場があります。米国やカナダ、英国はそれらの工場の供給を認めているのですが、日本と豪州は不具合のあった工場からの供給に依存しているため、供給が滞る事態になったのです。

 二度あることは三度あるで、同じような体制では、再び供給停止に追い込まれる薬が出るかもしれません。相次ぐ事態を教訓に、対策を整備しておくことがとても重要でしょう。今回のように海外に複数の工場があるケースは同じ製造元から同じ薬剤を緊急輸入し、国内で迅速承認して供給できる体制づくりが必要だと思います。販売元の大鵬薬品工業は、その線で交渉しているようです。

中川恵一

中川恵一

1960年生まれ。東大大学病院 医学系研究科総合放射線腫瘍学講座特任教授。すべてのがんの診断と治療に精通するエキスパート。がん対策推進協議会委員も務めるほか、子供向けのがん教育にも力を入れる。「がんのひみつ」「切らずに治すがん治療」など著書多数。

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