最期は自宅で迎えたい 知っておきたいこと

「どんな患者も」「どんなケアも」「どんな仕事も」を日々実践

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写真はイメージ(C)日刊ゲンダイ

 おかげさまで、あけぼの診療所は開業以来、たくさんの利用者の支持を得て、5年前の開業当初は月90人程度だった患者さんも、今では500人ほどになっています。ひとえに、これからの在宅医療の理想のカタチとして日々私たちが実践する「どんな患者さんも断らない」「可能ならば患者さんが望むどんなケアも行う」「どんな慣れない仕事も現場で学びながら行う」の3つの“どんな”が患者さんやご家族の支持を広く得た結果だと考えています。

 日頃から心掛けているのは、在宅医療は社会の最後のセーフティーネットであるということ。そのためにさまざまな事情を抱えた患者さんを私たちはお世話しています。時に他の病院から拒否された患者さんもいます。他人との関わりを避けて心を閉ざした方もいます。

 そんな患者さんに対しても、我慢強く知恵を出し合い、問題を共有し、最終的には患者さんに納得してもらえるよう、ベストの方法を導き出せるように努力を続ける。そういう意味では在宅医療はさまざまな事態に柔軟に対応する現場主義の医療と言えるでしょう。

 特殊な事情を抱えた患者さんがいました。

 90歳代前半の女性で、ある日、自宅内でゴミに埋もれていたところを地域包括支援センターの担当者が発見。左腰の外側に褥瘡、いわゆる床ずれがあり、私たちに連絡が来たのです。早速ケアマネジャーさんに見てもらい、患者さんの日々の状態を共有。短期記憶ができるか、入浴などは可能かなどの認知度などを見て、介護度のレベルを上げられないか検討した上で介護申請を行い、訪問看護の手配を行うなど、連携を密にし在宅医療をスタートさせました。

 離れて暮らす息子さんも、様子を見に時折訪ねていたそうですが、どうしたらよいのか途方に暮れていた様子。しかし在宅医療がスタートしてからは、定期的に当院の医師や訪問看護師さんが入ってケアをすることになり、診療所・訪問看護師・ケアマネジャーさんが連携して包括的に支えるうちに、褥瘡も治るなど、日々の状態が改善されていきました。

 それにつれ最初は拒否感の強かった患者さんも徐々に自分のことを話すようになり、次第に心を開いてもらえるように。やがては私たちに感謝の言葉を口にするほどまでになり、今も元気に過ごされています。

 そんな患者さんの変化の様子を、いつも訪問しているチームから毎夕のミーティングで知ることができました。

診療パートナー「ゼリーは?」

患者「あー、うれしい。欲張り婆さんだね。うふふ。どうしてこんなに親切にしてくれるの? うれしい。医師不足の時代に、ありがとうね」

診療パートナー「元気になりましょうね」

 このように何げない患者さんの日常を取り戻すこともまた、在宅医療に求められている役目だと考えています。

下山祐人

下山祐人

2004年、東京医大医学部卒業。17年に在宅医療をメインとするクリニック「あけぼの診療所」開業。新宿を拠点に16キロ圏内を中心に訪問診療を行う。

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