コロナ禍で薬の長期処方が増加 高齢者の「ポリファーマシー」には要注意

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 長引くコロナ禍で、あらためて高齢者の「ポリファーマシー」が懸念されている。複数の薬を服用する多剤併用によって有害事象につながる状態のことで、近年、社会的にも大きな問題になっている。岡山大学病院薬剤部の神崎浩孝氏に聞いた。

 1年以上にわたるコロナ禍によって、なるべく外出を控えて自宅で生活する時間が増え、日常的な運動不足になったり、他者とのコミュニケーションが大幅に減少した人も多い。そうした生活環境の急変によって、高血圧、高血糖、高コレステロールといった生活習慣病のコントロールがおろそかになって状態が悪化するケースが増え、服用する薬の数がさらに増えたり、薬の管理がしっかりできなくなって、健康被害につながる懸念が広がっているのだ。

「厚労省の調査では、65~74歳の15%、75歳以上では26%が7つ以上の薬を処方されていることがわかっています。6種類以上の薬を多剤併用している患者さんは、ほとんどが生活習慣病などの慢性疾患を抱えている高齢者です。慢性疾患の患者さんは、薬を処方してもらうために定期的に通院しているという場合がほとんどなので、コロナ禍で受診控えする人が多くなり、薬の長期処方が増えているというデータがあります。本来なら、担当医の診断の下、1カ月に1回ペースで処方されていたような薬を、いっぺんに3カ月分もらうといったケースが増えたのです。そんな状況がポリファーマシーのさらなる深刻化につながるのではないかと指摘されています」

 通常であれば、担当医が定期的な診察で患者が抱えている疾患の状態を確認したうえで、適切な薬が処方される。

 検査の結果や病状の変化によっては、薬を変更したり、種類や数を減らすなどの調整も行われる。

「しかし、長期処方が増えると、担当医が患者さんを直接診る機会が減ってしまいます。そのため、いまの状態であれば必要のない薬をそのままずっと飲み続け、健康を損なうリスクがあるのです。また、複数の医療機関を受診されている患者さんの場合、同じ作用の薬が重複して処方され、過剰摂取になって健康被害につながってしまう可能性もあります。飲み合わせが不適切な複数の薬を服用して効きすぎたり、逆に効果が薄れて基礎疾患を悪化させてしまうケースも考えられます。高齢になると、薬を代謝して体外に排出する肝臓の機能が衰えるため、体内に薬が長時間とどまって副作用が表れるリスクも高くなるので、より注意が必要です」

■薬の管理ができなくなって…

 対面診療では、医師が適切な薬を正しくきちんと飲んでいるかをチェックして、服薬指導も実施する。しかし、そうした機会が少なくなると、薬の管理を患者自身に任せることになる。

「服用する薬の種類と数が増えれば増えるほど、管理が難しくなります。たとえば、A薬は朝、昼、晩の食後に1錠ずつ、B薬は朝と晩の食後に1錠ずつ、C薬は朝だけ食前に2錠……といった状態になると、把握するだけでも大変で、飲み忘れや取り違える可能性が高くなる。認知機能が衰えてくる高齢者であればなおさらです。また、いっぺんに10錠近い薬を飲むとなった場合、それだけで服薬に対するモチベーションが低下してしまいます。飲まなきゃいけないとは分かっていても、どうしても飲む気になれない。そのうち、服薬を中断してしまう人もいるのです」

 ポリファーマシーを回避するためには、漫然と薬を使用するのは避け、自分にとって本当に必要な薬なのかどうかを定期的に見直すことが大切になる。

「まずは担当医に相談して、自分の今の状態でどうしても飲まなければならない薬はどれなのかを把握することです。複数の医療機関で処方してもらっている場合は、お薬手帳を持参してチェックしてもらってください。近年は何種類かの薬の成分をひとつの薬に配合した合剤(配合剤)も出ているので、薬の種類を減らせる場合もあります」

 コロナ禍で自宅で過ごす時間が増えているからこそ、セルフメディケーションは重要だ。

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