Dr.中川 がんサバイバーの知恵

ワクチンの積極的勧奨再開へ…子宮頸がん検診が20歳で始まる意味

子宮頸がん検診は20歳から2年に1回の受診がのぞましい
子宮頸がん検診は20歳から2年に1回の受診がのぞましい(C)日刊ゲンダイ

 HPVワクチンをご存じですか。HPVは、ヒトパピローマウイルスを英語にした頭文字で、子宮頚がんの原因となるウイルスです。

 その感染を防ぐワクチンは2013年に定期接種化されましたが、副反応問題の拡大で、接種の積極的勧奨はわずか2カ月で中止。以来、接種は事実上ストップしていました。

 その後、接種と副反応に関連がないことが分かり、厚労省はこのほど積極的勧奨の再開を検討。それに合わせて、日本産科婦人科学会は6日、定期接種の対象を当面、高校3年生まで広げるよう厚労相に要望書を提出したのです。

 女性を守るがん対策の点で、この動きは見逃せません。HPVワクチンの接種対象は、小6から高1までの女子。それを2年延長するのは、中止されていた8年間に接種していない人の接種を少しでも促すのが狙いでしょう。

 このウイルスは、セックスが媒介します。男性が感染すると、尖圭コンジローマや陰茎がん、肛門がんなどになり、男女に共通するのは中咽頭がんです。このウイルスが喉に影響を及ぼすのは、オーラルセックスの定着と関係しています。

 男性はある意味、“ウイルスの運び屋”ですから、無関係ではありませんし、女性の接種年齢が小6からと若いのは初体験の前に接種しないと効果が少ないから。対象拡大が高3までにとどまるのも性交渉前を意識したためと思われます。

 体の中でがん細胞の“芽”ができて、早期といわれる1~2センチ程度に大きくなるまで10~20年を要します。10代の女性が初体験でHPVに感染したとすると、30代くらいで子宮頚がんを発症することになります。子宮頚がんの発症ピークが30代なのはそのためです。

 胃がんや大腸がん、肺がんなどは50代を越えて増えますが、女性のがんは若くして発症するのが特徴。乳がんの発症ピークは40代です。子宮頚がんはさらに早く、子宮頚がん検診は20歳から始まり、2年に1回の受診が推奨されます。女性は高校を卒業すると、すぐ子宮頚がん検診が始まるのです。

 困ったことに、子宮頚がん検診の受診率は低く、4割ほど。8割を超える米国やドイツのほぼ半分です。そこにワクチン接種の事実上停止が8年間続き、昨年からはコロナ禍の拡大で受診控えも重なりました。ワクチンを接種していない人、検診を控えている人の間で、子宮頚がんが増えないか問題です。

 子宮頚がん検診は2年に1回ですから、昨年受診していない人は今年必ず受けること。娘のワクチン接種を見合わせた親は、すぐに接種を検討すべきでしょう。

 女性の30代、40代は、出産や育児など重要なライフイベントが目白押しで、会社でも重要なポストにいます。パートナーとして、同僚として、男性も無関係ではありません。子供や孫が娘なら、ワクチン接種をしっかりと促し、「成人したら、子宮頚がん検診を」と教えて損はないでしょう。

中川恵一

中川恵一

1960年生まれ。東大大学病院 医学系研究科総合放射線腫瘍学講座特任教授。すべてのがんの診断と治療に精通するエキスパート。がん対策推進協議会委員も務めるほか、子供向けのがん教育にも力を入れる。「がんのひみつ」「切らずに治すがん治療」など著書多数。

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