最期は自宅で迎えたい 知っておきたいこと

大学病院からの患者さん紹介がこの3年で7倍に増加した理由

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写真はイメージ(C)日刊ゲンダイ

 おかげさまで「あけぼの診療所」は開業5年目を迎えます。そんな変化の中で一番大きなものは、「病院側の在宅医療に対する認識の変化」です。

 その認識とはなにか? それは、在宅医療は患者さんを受け入れるに当たって信頼に足りる医療機関であるという認識の変化です。

 例えばある大学病院からの紹介は、2018年には7件だったのが、昨年には50件を超えました。そしてさらに今年も最高記録を更新しそうなのです。このように関係する病院・事業者さんからの患者さんの紹介が、年々増えているのが現実です。

 一般的に入院している患者さんが退院をする場合、その退院の調整は、病院内の「看護相談室」や「退院支援センター」または、「連携室」という部署が行っています。

 これらの部署は退院の日時を決めたり、退院の際に持って帰る薬剤や医療機器を手配したり、在宅医療のクリニックや訪問看護ステーションをどこにするのかまでも決めたりします。

 その際に患者さんの要望ももちろん聞きますが、「この病状だとこのクリニックがよい」「この人は落ち着いているから、ゆったり話を聞いてくれる先生がいるあのクリニックにしよう」「この人は医療依存度が高いから、しっかりした体制が整っているあの診療所にしよう」といった具合に、より一歩踏み込んで、その患者さんのパーソナリティーに合った最適な診療所を選定しようと努めるなど、いわばコーディネーター的な役割も担っています。

 最近では私たちの診療姿勢を理解し、信頼を寄せてもらえる病院も現れました。

 特にそんな病院からは、残された時間が少なく自宅に帰るタイミングの限られた患者さんを紹介されることが多く、中には最短30分で対応する「即時対応」のケースもあり、患者さんの「最期は自宅で」という思いを、少しでも早くかなえることのできる医療連携も育ち始めています。

 そんな病院との連携が実を結んだ患者さんがいました。

 その方は80代前半の、認知症と慢性腎臓病を患う男性で妻と2人暮らし。1カ月前から徐々に食欲が低下し、ある病院を受診されましたが、そこでの透析中に状態が急変し意識レベルの低下があり、医師から入院加療を勧められましたが、入院したら家族に会えないからご自宅で療養したいというご本人とご家族の希望もあり、病院の看護相談室の担当者が早速調整し、当院による自宅療養が開始となったのでした。

 当初は疼痛により自力で体を動かすことが困難でしたが、鎮痛剤の内服によりやや改善できたため、待望しながらも諦めていたひ孫さんとの初対面も果たし、家族写真も撮ることができました。そしてそれから3日後、ご家族が見守る中、旅立たれていかれました。

 たとえ短い時間であろうと、患者さんにとっては宝石のように大切な残された時間を輝かせることも、在宅医療の大切な仕事なのです。

下山祐人

下山祐人

2004年、東京医大医学部卒業。17年に在宅医療をメインとするクリニック「あけぼの診療所」開業。新宿を拠点に16キロ圏内を中心に訪問診療を行う。

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