Dr.中川 がんサバイバーの知恵

がん患者ではコロナワクチンの副反応でPET検査に異常が出ることも

悪性リンパ腫であることを公表したジェフ・ブリッジス
悪性リンパ腫であることを公表したジェフ・ブリッジス(C)ロイター/Abaca Press

 がん患者の中には、コロナ感染に不安を抱えている人が少なくありません。昨年10月に悪性リンパ腫であることを公表した米俳優ジェフ・ブリッジスさんが、コロナ感染から回復したことが話題を呼んでいます。

 報道によると、コロナ感染は抗がん剤治療を受けていた医療機関だったようです。抗がん剤や放射線などの治療中は、免疫を担う白血球が減少するため、感染を起こしやすくなります。ブリッジスさんもその影響とみられ、かなり症状が重かったようです。5週間という入院期間の長さが、それを物語っているでしょう。

 SNSには「つらい抗がん剤治療も(コロナの闘病に比べれば)楽勝に思える」とつづったほどです。ひどいときは酸素供給も必要だったそうですが、退院した今は娘の結婚式に参加。酸素供給なしにダンスを踊ることができたことを喜んで語っています。

 12月で72歳。70代で苦しみながらも、回復できたのは、ワクチン接種を済ませていたことが大きいでしょう。

 がん患者のコロナ対策としては、ワクチン接種が不可欠です。日本は、接種8割完了に向けての道半ば。人によっては、接種をためらっているかもしれません。しかし、治療予定や治療中でも、経過観察中でも、アナフィラキシーショックのリスクがなければ接種が基本です。

 ただし、抗がん剤治療中などで免疫力の低下が強いと、抗体価が十分に上がらない可能性もあります。

 ブリッジスさんのように治療中に感染が見つかると、コロナの治療が優先。コロナを治してからがん治療を再開することになります。このときにがんが悪化する恐れもあるため、コロナの発症予防はとても重要。だからこそ、がん患者の人はワクチン接種が大切なのです。

 がん患者のワクチン接種では、発熱や痛み、倦怠感とは異なる特徴的な副反応が見られることがあり、要注意。それが、わきの下のリンパ節の腫れ(腋窩リンパ節腫大)です。これがあることで転移をチェックするPET検査を受けるときは、気をつけてほしい。

 PET検査は、がんに集まる性質の放射性物質を注射して行います。それで、わきの下のリンパ節に多数の陽性所見が見つかれば、「遠隔転移→治療困難」と判断されるかもしれません。

 実はコロナワクチンを接種すると、接種した側のリンパ節が腫れ、そのタイミングでPET検査を受けると、陽性になることがあります。ワクチンの副反応であって、腫瘍ではありませんから、それは誤診で、ワクチン接種後にPET検査を受けた人でそんなケースが相次いでいるのです。

 ですから、腋窩リンパ節の検査は、1回目の接種前か、2回目から4~6週間後がよいとされています。

 乳がん検診を受ける場合も、同様の注意が必要です。ワクチンを接種した人は、そのことを必ず主治医に伝えてください。

中川恵一

中川恵一

1960年生まれ。東大大学病院 医学系研究科総合放射線腫瘍学講座特任教授。すべてのがんの診断と治療に精通するエキスパート。がん対策推進協議会委員も務めるほか、子供向けのがん教育にも力を入れる。「がんのひみつ」「切らずに治すがん治療」など著書多数。

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