眼科医が警鐘 コロナだから「ちょっと様子見」は失明の危機…死ぬまで健康な目で生きるために

早めの検査が大事(提供写真)

 長引くコロナ禍。感染が怖くて通常診療の病院に行けない人は多いだろう。しかし、放っておくと重症化し手遅れになる病気はさまざまある。特に目の病気は命の危機に直結しないため後回しにされがちだが、「かじわらアイ・ケア・クリニック」の梶原一人院長(眼科医)は「人生100年時代といわれるいま、目の健康を維持することはQOLを保つためには必要不可欠」と警鐘を鳴らす。

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 まずは梶原院長の経歴を紹介しよう。1959年、東京・品川区の生まれ。慶応義塾大学医学部を卒業後、眼科医に。しかし、現場で治せない病気に数多く直面し、「根本的な治療法を見つけたい」と米ハーバード大学に研究員として留学した。在職中に世界的に権威のある英科学誌「ネイチャー」と米科学誌「サイエンス」に論文を発表するなど実績を残す。その後、スタンフォード大学医学部に移籍。2006年に「かじわらアイ・ケア・クリニック」(東京・錦糸町駅直結)を開設するや、全国から患者が殺到しており、これまでに8万6000人の目を救ったスーパードクターだ。

 新刊書「ハーバード×スタンフォードの眼科医が教える 放っておくと怖い目の症状25」(ダイヤモンド社)を執筆したが、その理由をこう説明する。

「患者側と医師側、それぞれの問題に警鐘を鳴らしたかったからです。まず患者側の問題は、目の病気を甘くみて、重症になるまで受診してくれないこと。もっと早く来てくれればと思うことが多いのです。そして医師側の問題。保険医療制度では人数を診ないと収入が上がらないので、眼科医がじっくり患者さんと向き合う時間が少ない。確かに目の病気は進行が遅く、すぐ死に直結するわけではないのですが、ろくに説明もせず『しばらく様子を見ましょう』の繰り返しでは患者さんが切迫感を抱くことができません。結果的に手遅れになるという悪循環に陥ってしまうのです」

 どの病院に行っても満足できる説明や治療を受けられず、行き場を失った患者が梶原院長のクリニックを訪れている。

「私はこうした患者さんたちを〈眼科難民〉と名付けました。私たち眼科医側が患者さんとの向き合い方を正すのはもちろんですが、患者さんの側も〈放っておいたら怖い目の病気や症状がある〉ことを理解し、早めに対処してほしいのです」

■40歳でも緑内障は始まっている

 放っておくと怖い目の病気や症状とは具体的に何か。特に中高年男性が気をつけたいものを梶原院長に聞いた。

「まずは、日本人の失明原因の第1位である〈緑内障〉です。高齢者の病気と思われがちですが、40歳以上の20人に1人が緑内障だといわれています」

 緑内障とは、目の奥の視神経の細胞がダメージを受け、少しずつ視野が狭くなっていく病気だ。この病気がやっかいなのは、目の痛みや充血といった自覚症状がほとんどないこと。初期や中期はおろか、失明寸前まで「見えない」と感じることがない。つまり、自覚した時には「手遅れ」である可能性が高い。しかも早ければ10代で発症することもあるという。

「防ぐためには、早めの検査しかありません。一般的には眼圧が高いと緑内障になるといわれていますが、うちのクリニックの緑内障患者の97%は正常眼圧。つまり一般的な健康診断で眼圧検査をしても、緑内障の早期発見にはつながらないのです。ですので、特に血縁者に緑内障の人がいれば、30歳になったら一度眼科医に診てもらって下さい」

■目に小さなゴミや虫が飛んだらすぐに受診を

 次に気をつけたいのは「飛蚊症」だ。物を見ていると黒い虫のようなものが動いて見える状態のことで、生理的な原因で起こるものもあれば、病気が原因で起こるものもあるという。

「その病気の代表格が〈網膜剥離〉です。網膜剥離とは、眼球の内側の網膜という膜が剥がれて、視力が低下する病気です。ボクサーが引退に追い込まれる病気というイメージがありますが、加齢や糖尿病などでも起こる身近な病気です」

 剥離というから痛いのかと思いきや、緑内障と同様、痛みを伴わず、自覚症状がほとんどないという。進行すると手術しか治療法がなく、視力が回復しない可能性もある。

「網膜剥離の発症は20代と60代がピーク。急に目の前に小さなゴミや虫が飛んでいるように見えたら、すぐさま眼科医を受診して下さい」

 どんなに長生きしても、見えていたものが見えなくなったり、見えづらくなったりしては、生きる喜びも半減だ。100歳まで元気な目でいるにはどうすればいいのか?

「緑内障や網膜剥離など一部の重篤な病気は、日常生活では防ぎようがありません。しかし、それ以外の多くの目のトラブルには〈目の血流〉を促すことが効果的です。なぜなら目には細かい血管が集中しており、血流が悪化すると十分な酸素や栄養が届きづらくなり、目の病気につながりやすくなるからです」

梶原一人院長(提供写真)
目の「機能」を高める3つのポイント

 梶原院長が勧める「目の血流をアップする方法」は次の通り。

①ホットタオルで目を温める

 一日の終わりに、濡らしたタオルをギュッと絞り、電子レンジで1分ほど温めて、まぶたの上に3分置く。ドライアイの改善にも効果あり。

②首を回す

 肩から首にかけての血流を改善すれば、目の血流にも好影響。目が疲れたと思ったら、ゆっくり10秒ほどかけて首を1周回すといい。

③たばこをやめる

 たばこに含まれるニコチンは、血管を収縮させて血液の流れを阻害する。喫煙者が「眼底出血」や「加齢黄斑変性」になる確率は、非喫煙者の3倍近くという報告も。

 その他、「こまめに動いて全身の血流をうながす」や「シャワーだけでなく風呂につかる」など、ささいなことでも効果があるそう。

「基本的には高血圧や糖尿病、動脈硬化の人は目の病気にかかりやすい。近年日本人にも増えている加齢黄斑変性症も、食習慣の欧米化が大きな原因といわれています。つまり、死ぬまで目の健康を維持するには、からだ自体を健康に保つこと。そして、親身に診てくれる眼科医を見つけておき、少しでも異変を感じたら診てもらうことです」

 コロナだから「ちょっと様子を見よう」と受診を遅らせてしまうと、とんでもないことになる。

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