最期は自宅で迎えたい 知っておきたいこと

患者はその場ですべてを聞いて判断し、納得しなくてもいい

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写真はイメージ(C)日刊ゲンダイ

 在宅医療におけるコミュニケーションの取り方の特徴は何かといえば、「とにかく繰り返し伝える。その都度、きちんと説明する」ことです。

「先生、本当に最期まで自宅で過ごせるの?」と聞かれたとします。入院か在宅医療かで迷われている状態での問いかけか、退院したばかりの不安な状況で出てきた言葉か、自宅で療養する自信がついた中で先生のダメ押しが欲しいのか……。患者さんの状況で答えは変わってきます。

 在宅医療の経験前なら、いろいろな選択肢があり、それぞれの良い点と、場合によって要望がかなえられないことなど、まんべんなくお話しします。在宅医療中の人なら、これまでやってこれたから大丈夫と、自信を持てるようにお伝えします。

 私たちが日頃、患者さんへの伝え方で意識するやり方に、「刷り込みコミュニケーション」というものがあります。多色刷りの版画をイメージしてみてください。最初に下地の色を付けるみたいに全体の概要を伝え、その中にこちらが伝えたい重要なことをちりばめるやり方です。

 リアルタイムではさして気にせず流して聞いているような内容も、その言葉が示す状況が来たときに再び伝えると、「そういえばあのとき先生が、ああ言っていた」と、版画の絵が浮かび上がるように患者さんにイメージが伝わり、ストンと腹の底に落ちる――。これが、刷り込みコミュニケーションです。

 患者さんはその場で一度にすべてを聞いて判断し、納得しなくてもいいのです。私たちが何度も何度も話をし、その人が持っている価値観やそのときの気持ちに添って、話を持っていきます。

 病院では、先生を拘束しては悪いと思って、満足に聞けなくなりがち。でも、自宅だとゆっくり話せます。こちら側も、「今日は家族が集まるから」「体調も良くて話ができそうだから」と、診療をちょっと長めに取るなどスケジュールを工夫します。

 大学病院から紹介された患者さんがいました。奥さんと2人暮らしの85歳の男性で、末期の急性混合性白血病。病院にいつでも戻れるように申し送りした上で、在宅医療がスタートしました。

 この患者さんは好奇心旺盛で、よく話される方でした。往診する医師やスタッフとの間でも心を開き遠慮なく話され、ご自分の病気の仕組み、輸血の際などには白血球の働きを細かく質問するなど、心を開き探求心旺盛に、楽しそうに会話していました。ある日のことです。
患者「こんなに急激に悪くなって、あと余命はどれくらい?」

医師「言っても大丈夫ですか?」

患者「お願いします」

医師「正直、今の悪い状態が続くと週単位かなと思います。でも、はっきりしたことは分からない」

患者「ご飯を食べられなくなると終わりですよね?」

医師「ひとつの目安にはなりますね」

 こうして、この患者さんは在宅医療を開始して約1カ月ほどで旅立たれました。実際には予想より長く頑張って生活できたわけですが、「悪い予想が、良い方に外れましたね」とお話ししたところ、笑っていらっしゃいました。

下山祐人

下山祐人

2004年、東京医大医学部卒業。17年に在宅医療をメインとするクリニック「あけぼの診療所」開業。新宿を拠点に16キロ圏内を中心に訪問診療を行う。

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