リアルタイムではさして気にせず流して聞いているような内容も、その言葉が示す状況が来たときに再び伝えると、「そういえばあのとき先生が、ああ言っていた」と、版画の絵が浮かび上がるように患者さんにイメージが伝わり、ストンと腹の底に落ちる――。これが、刷り込みコミュニケーションです。
患者さんはその場で一度にすべてを聞いて判断し、納得しなくてもいいのです。私たちが何度も何度も話をし、その人が持っている価値観やそのときの気持ちに添って、話を持っていきます。
病院では、先生を拘束しては悪いと思って、満足に聞けなくなりがち。でも、自宅だとゆっくり話せます。こちら側も、「今日は家族が集まるから」「体調も良くて話ができそうだから」と、診療をちょっと長めに取るなどスケジュールを工夫します。
大学病院から紹介された患者さんがいました。奥さんと2人暮らしの85歳の男性で、末期の急性混合性白血病。病院にいつでも戻れるように申し送りした上で、在宅医療がスタートしました。
最期は自宅で迎えたい 知っておきたいこと