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米テキサス州の中絶法施行が全米に衝撃 “中絶難民”発生でも最高裁は差し止めせず

テキサス州知事のグレッグ・アボット氏
テキサス州知事のグレッグ・アボット氏(C)ロイター

 今月、テキサス州の人工妊娠中絶を禁止する法律が施行され、全米に衝撃を与えています。

 胎児の心音が探知できた場合の中絶が違法ということから、通称「ハートビート法」と呼ばれるこの法律。妊娠約6週目で、多くの女性はまだ妊娠を自覚できない段階であること、レイプやインセストによる妊娠も含まれることから、事実上の中絶全面禁止と考えられています。

 これまでと違い際立って異常なのは、違反した場合に政府が罰則を与えるのではなく、一般人を起訴し取り締まるルールという点。州民なら誰でも対象で、施術した医師やスタッフ、女性を運んだウーバーの運転手までが訴えられ、訴えた人は成功報酬1万ドル(約110万円)もらえるとしています。これでは、まるで罪人に懸賞金をかけるようなもの。州民と州民を対立させ分断を利用する、まるで恐怖政治だと反発も広がっています。

 この法律の施行直後から、全米2位の巨大州テキサスでは中絶難民が発生。中絶希望の女性のほとんどは近隣州での手術を試みているとみられますが、周囲の保守州での中絶施設はオクラホマ州で6軒、アーカンソー州で4軒、ルイジアナ州でわずか3軒しかありません。そのため予約が困難となっており、望ましい時期よりも遅く手術を受けることになる女性の健康やメンタル面のリスク、出産しか選択肢がなくなり、経済的に一層困窮する低所得者も増えると考えられています。

 何よりも衝撃だったのは、テキサス法施行の差し止めを求める訴えを連邦最高裁が退け、そのまま施行を許したことです。最高裁は間もなくミシシッピ州の同様の法律の審議を行う予定ですが、トランプ元大統領に指名された3人の保守判事を含め、保守が圧倒的多数の最高裁でどのような判断が下されるのか――。それいかんでは、女性の中絶の権利を認めた現行の連邦法が覆されるのではないかと、懸念は高まる一方です。

 これを受け、バイデン政権は違憲の疑いでテキサス州を訴え、緊急の差し止めを模索しています。

シェリー めぐみ

シェリー めぐみ

NYハーレムから、激動のアメリカをレポートするジャーナリスト。 ダイバーシティと人種問題、次世代を切りひらくZ世代、変貌するアメリカ政治が得意分野。 早稲稲田大学政経学部卒業後1991年NYに移住、FMラジオディレクターとしてニュース/エンタメ番組を手がけるかたわら、ロッキンオンなどの音楽誌に寄稿。メアリー・J・ブライジ、マライア・キャリー、ハービー・ハンコックなど大物ミュージシャンをはじめ、インタビューした相手は2000人を超える。現在フリージャーナリストとして、ラジオ、新聞、ウェブ媒体にて、政治、社会、エンタメなどジャンルを自由自在に横断し、一歩踏みこんだ情報を届けている。 2019年、ミレニアルとZ世代が本音で未来を語る座談会プロジェクト「NYフューチャーラボ」を立ち上げ、最先端を走り続けている。 ホームページURL: https://megumedia.com

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