独白 愉快な“病人”たち

放送作家・野々村友紀子さんが語る「ムズムズ脚症候群」との苦闘

野々村友紀子さん
野々村友紀子さん(C)日刊ゲンダイ
野々村友紀子さん(放送作家・47歳)=ムズムズ脚症候群

 2014年ごろ、テレビを見ていたら「ムズムズ脚症候群」について取り上げていて、「これだ!」と思いました。「これって名前がついた病気なんだ」とそのとき初めて自分の脚に起こる症状が病気だと知り、びっくりしました。正式には「レストレスレッグス症候群」または「下肢静止不能症候群」というそうですが、通称は「ムズムズ脚症候群」。ちょっと面白い名前なので、その苦しさやつらさが、なかなか伝わりにくいんですけど、世の中にはけっこう仲間がたくさんいて、ネット上でこの病気の過酷さを共有しています。

 私の場合は若い頃から、夜に脚がムズムズしてしまう症状がありました。でもそれが特殊だとか、病気だと思ったことはなく、「肩凝り」ぐらいにポピュラーで誰にでも起こっているものだと思っていました。

 でも、14年のそのテレビ番組を見てからは変に意識するようになって、症状が頻繁になっていった気がします。

 症状が出るのは決まって夜です。人によって違うのですが、私は日中に出たことはありません。眠くなってベッドに入ると脚が重だるい感じになって、ジッとしていられなくなるのです。「虫が這うような」と表現する人もいますが、私は「とにかく脚を動かしたくて仕方がなくなる」のです。

 一度こうなると、もうどうにもなりません。眠いのに眠れない地獄の始まりです。

 手をグーにして膝をドン! ドン! と音がするくらいの強さでたたいたり、寝ながら脚を上げてキックし続けたり、ブラブラさせたり……そうしないといられないのです。一度、脚をガチャッと外して全部分解して付け直したいくらい。特に関節ですね。

 できることなら、膝を逆側にバキッと折りたいくらいの衝動が、体の奥から湧き上がってくるのです。

 対処法は、深夜にひとり、リビングでシャドーキックボクシングをすることが多いです。ひと暴れすると落ち着きます。でも早くても30分、長いと3~4時間。真っ暗な中、朝の4時までずっと暴れていたこともあります。そうやって暴れても、「ああ、ムズムズが治まった。よかった」と思って眠りにつくことはありません。ヘトヘトになって体力がゼロになって、気絶するように眠るのです。

 そんな状態がだいたい1週間ぐらい続きます。誰でもなかなか眠れないと、「早く寝なくちゃ」と焦るじゃないですか。それがずっと続く感じ。意識しすぎると脚だけじゃ済まなくて、首や腕までムズムズしてくる。

 眠れないまま朝が来て、仕事に行き、その夜もまた眠れなくて朝方までシャドーキックボクシング……。ものすごく眠いのに眠れない上に、暴れたくもないのに暴れないといられないから、体力的にも精神的にも、ものすごくしんどい。悪循環そのものです。そのために、打ち合わせに遅刻したこともありますし、免疫力が落ちて風邪をひくこともありました。

 ただ、最近はムズムズするスパンが長くなってきて年に1回ぐらいになりましたが、最盛期には2カ月に1回ぐらいムズムズ週間があったので、本当につらかった。

■ブログで報告すると反響が続々

 数カ月前にムズムズが出たときは、サプリメントの「ヘム鉄」と「マルチビタミン」を飲みました。マルチビタミンは、たまたま深夜のシャドーキックボクシング中に目に入って、「いろんな栄養が入っているから何かに効くやろう」と思っただけですが、鉄分については、SNSでいろんな人が体験談を上げている中、「鉄分飲むといい」という意見が多かったから飲んでみました。それが効いたかどうかは正直わかりませんが、比較的早く症状が治まったように思います。

 私も最近ブログにムズムズ脚のことを書いたら、思いのほか反響があって、夜中に寝床で脚を上げてブラブラさせている人がたくさんいることを知りました。「産後の人に多いらしい」という情報があったり、「病院で鉄分を処方してもらうのが一番早い」との意見もありました。ほかにも「周りに説明しても分かってもらえない」という悩みや、「ひとりじゃないとわかって夜を乗り越えられるようになった」という声も……。「これ、病名があるんですね」という人もいたので、隠れムズムズ脚の人はもっといると思われます。

 こうして話している間にも意識が脚に向かうので、「思い出しムズムズ」になりそうなんですけどね(笑い)。

 学んだこと? いや~なんやろ。でも眠れない夜、世界中にムズムズしている人が自分と同じように今暴れていると思えば、つらい夜もなんとか乗り越えられる。あと、「体力がゼロになると人間は勝手に寝る!」ってことですかね(笑い)。 今のところ、あまり症状が出ないので、病院を受診する予定はないんですけど、いつかまた頻度が上がってきたら、受診しようと思っています。そんなこと言ってて、今夜出るかもしれません。

(聞き手=松永詠美子)

▽野々村友紀子(ののむら・ゆきこ)1974年、大阪府生まれ。92年、大阪NSCに入学しコンビで活動していたが、99年に解散し放送作家に転身。2002年にお笑いコンビ・2丁拳銃の川谷修士と結婚し、出産・育児を経て12年に仕事復帰した。漫才やコントの脚本、劇場ライブの構成・演出などを手掛けるほか、NSC東京校講師、アニメやゲームのシナリオも制作。「強く生きていくためにあなたに伝えたいこと」など著書多数。

関連記事