Dr.中川 がんサバイバーの知恵

西郷輝彦さんは前立腺がんが「消えた」 最先端PSMA治療の効果とは

西郷輝彦
西郷輝彦(C)日刊ゲンダイ

 俳優・西郷輝彦さん(74)の前立腺がんが劇的に改善したことが話題となっています。西郷さんのユーチューブなどによると、ステージ4のがんを治すべく、豪州に渡り、最先端治療のPSMA治療を受けたそうです。当初、治療は3回の計画で、2回目にCT画像上は「がんが消えた」というのです。

 ご自身の動画や報道などから、これまでの経過を振り返ると、2011年に前立腺がんを全摘するも、6年後に再発し、骨転移が発覚。抗がん剤治療や放射線治療などで進行を抑えながら仕事に励んでいましたが、コロナ禍の自粛中に前立腺がんのマーカーであるPSAが急上昇。がんは背中や胸に広く転移していたそうです。

 国内ですべての標準治療を受けていたため、いちるの望みを託したのがPSMA治療でした。日本では未承認のため、豪州に渡ったわけです。

 PSMA治療とは、前立腺がんと転移部分のみに集まる放射性薬剤を用いた放射線治療のこと。これを注入すると、前立腺がんの表面にある特殊なタンパク質PSMAに結合し、薬剤が放射線を出すことで、がん細胞のみをピンポイントで叩くことができる仕組みなのです。

 渡豪後の経過には、曲折があったそうです。1回目の治療後は、CT画像でがんが消えることがなかったばかりか、PSA値が上昇。不安が募ったようです。その不安を打ち消すように2回目の注射を受けたところ、「がんが消えた!」といいます。

 しかし、その一方でPSA値はさらに上昇。800になっていたことに気づきます。豪州の医師には日本での検査を勧められたそうですが、日本の医師には「あとはあなた次第」と自己判断を促されたことで、西郷さんは豪州での3回目の治療を強く望んでいるといいます。

■すべての前立腺がんに適用になるわけではない

 なぜ、このようなことになるのか。報じられていることから推察すると、腫瘍崩壊症候群の可能性があると思います。放射線治療や抗がん剤治療により、短期間に大量のがん細胞が破壊されることで、その“死骸”の影響から一時的に腫瘍マーカーが上昇することがあります。

 それと相まって、CTでは確認しきれない転移が潜在的に増大し、PSA値に影響を及ぼしていることもあるでしょう。それらによって、CT上はがんが消えながらも、PSA値が高くなることがあるのです。

 国内で標準治療を受けているとのことですから3回目を受けるのは妥当だと思います。白血球減少をはじめとする副作用が問題なければ、4回目以上も可能でしょう。

 この治療、とても有望ですが、すべての前立腺がんの方が適用になるわけではありません。PSMAがあるタイプで、転移があり、去勢抵抗性であること。去勢抵抗性とは、ホルモン療法が効かない人です。

 日本では受けられないこの「核医学治療」、一連の報道で制限が解禁されるような方向に動きだすといいのですが……。

中川恵一

中川恵一

1960年生まれ。東大大学病院 医学系研究科総合放射線腫瘍学講座特任教授。すべてのがんの診断と治療に精通するエキスパート。がん対策推進協議会委員も務めるほか、子供向けのがん教育にも力を入れる。「がんのひみつ」「切らずに治すがん治療」など著書多数。

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