認知症を予防する補聴器のすべて

「音が聞こえること」と「言葉が聞こえること」はまったく違う

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写真はイメージ(C)日刊ゲンダイ

 よくお客さまから「音は聞こえるけど、言葉として聞き取れない」と言われることがあります。実は音が聞こえることと、言葉が聞き取れることは、まったく異なる状態なのです。

 聴力に問題があるかどうかは、ヘッドホンを装着し、聞き取れる最小の音圧レベル「最小可聴閾値」を調べることで分かります。健康診断などで行う検査です。

 一方、言葉の聞き取りの能力は「語音明瞭度」と言います。「あ」「き」「し」「た」といった1音ずつの“単音”をヘッドホンから一定の速度で流し、どのくらいの音量で何個聞き取れるか、その正答率で表します。全部で20個の、大きさが違う音を聞き取ってもらうのですが、たとえば1つの音が聞き取れれば5%。20音全部聞き取れれば100%、18問なら90%と計算します。

 補聴器の目指すところは、「普通の会話の音量」でその人の持っている最高の「語音明瞭度」にすることにあります。

 はっきりと言葉を聞き取れる状態を「完成したジグソーパズル」に例えるなら、語音明瞭度が下がり言葉を聞き取れない状態は、パズルのピースが抜け落ちた状態と言えます。それを補聴器では不完全ながらも、できるだけ聞き取れる状態に微調整します。

 ただし、残念ながら補聴器をいくら調整しても、聴力に問題がない人と同じ語音明瞭度100%までにはなりません。また、語音明瞭度がかなり低くなってしまってから補聴器を使い始めても、音は聞こえるが、言葉は聞き取りづらいままとなるケースも。

 この説明をしっかりされないままに補聴器を購入すると「期待したほど聞こえない」ということに陥ってしまいます。

 70代前半の女性のお客さまがいました。補聴器を着けてから時間をかけて微調整した結果、人の言葉を聞き取れるだけでなく、換気扇や水の音なども聞こえ、「台所にはこんなに音があるのね」とうれしそうにおっしゃいました。

 年齢を重ね衰えた言葉を聞き取る力は、補聴器では完全に補うことはできません。ですから早めに脳に音の刺激を入れてあげることが必要です。

田中智子

田中智子

シーメンスの補聴器部門でマーケティングの勤務を経て、2020年補聴器販売会社「うぐいすヘルスケア株式会社」設立。認定補聴器技能者資格保持。

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