性行為中に合意なくコンドームを外す行為「ステルシング」を違法とする法律がカリフォルニア州議会で成立し、話題になっています。
調査によれば、世界の女性の3人に1人、男性の5人に1人がステルシングを経験しているといいます。ドイツ、イギリス、シンガポールなどの国ではすでに違法ですが、アメリカでの法制化は初めてです。
双方の合意のもとに行われていたセックスで勝手にコンドームを外すことは、モラルの問題だけではなく性暴力と同様の犯罪という判断で、10月に施行されればステルシングを行った相手を訴えられるようになります。
この法律のもとになったのは、2017年に法律専門誌に掲載されたエール大学の法科生アレクサンドラ・ブロードスキーさんの論文です。ステルシングは相手を妊娠や感染症のリスクにさらし、尊厳と自主性を侵害する、新しい形のレイプだと論文は主張しています。また、男性がリスクを知りながらステルシングを行ってしまう理由のひとつとして、潜在的に女性を自分の所有物と考えているからとする専門家もいます。
一方、ステルシングに関心が集まるきっかけとなったヒットドラマもあります。「アイ・メイ・デストロイ・ユー」というロンドンを舞台にレイプを題材にした作品で、先日、エミー賞で最優秀脚本賞を受賞しました。
アレクサンドラさんは、ドラマの中でステルシングが取り上げられたことに背中を押されたと言っていましたが、こうした文化的要素の影響も小さくありません。
そしてもうひとつ大きく関係しているのは、先週お伝えした通り、レイプも含めた妊娠に対する人工中絶を事実上全面的に禁じる厳しい法律がテキサスで施行されたことです。中絶をなくすための法律が必要なら、望まない妊娠を防ぎ女性の尊厳を守るこうした法も必要と考えるのが当然でしょう。
しかし、保守政治家の票集めにも有効な妊娠中絶禁止は騒がれても、女性の健康と誇りを守るこのような法律が今後どこまで他の州で成立するかはわかりません。フェミニズムの国とされるアメリカでさえも女性の権利が一進一退を続ける中、アレクサンドラさんは「この法律で少しでもステルシングに対する意識が高まって欲しい」とコメントしています。
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