Dr.中川 がんサバイバーの知恵

サプリ服用者はがん再発率が高い 米臨床腫瘍学会誌で報告

写真はイメージ
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「○○でがんが消えた」といった情報は、がん患者にはとても気になるでしょう。「○○」に入る言葉は、食材やサプリメントなどで、われわれがん専門医が見ると、効果が期待できないものが多い。今回は、そんなサプリについてです。

 厚労省が2005年にがん患者3100人に行った調査によると、健康食品の使用者は4割強に上ります。別のアンケート調査では、がん患者の8割がサプリをはじめとする代替医療を受けていると回答。そのうち8割は主治医に内緒だと答えています。そうすると、全体の6割ほどが主治医に内緒で何らかの代替医療を受けていることになります。

 がん患者のうち2人に1人くらいは、サプリユーザーですから、その影響が無視できません。ここまでサプリが普及する原因のひとつに、ガイドラインの弊害があるでしょう。

 どのがんであれ、手術と放射線、抗がん剤が標準治療で、ステージごとにそれぞれの組み合わせが定められています。それによって、全国どこでも、患者の状態に合わせた最適な治療が受けられるのです。

 そのメリットがある半面、ステージ4になり、すべての標準治療を受けてしまうと、その先に治癒を望める治療法がなくなります。「もう治療法はありません」と言われたら、どうでしょう。わらにもすがる気持ちのがん患者がいれば、サプリなどに頼りたくなる可能性があるでしょう。

 効果がなく、悪影響もなければ、まだいい。深刻なマイナスの影響が分かってきました。米国の研究チームが19年に米臨床腫瘍学会誌に発表した論文によると、抗がん剤治療をしていた乳がん患者でビタミンBや鉄をサプリで接種すると、無病生存率が低くなっていたのです。

 無病生存率が低いということは、サプリを服用する方が再発率が高いということ。この研究により、サプリが抗がん剤の効果を弱めているのではないかという仮説が唱えられました。

 これとは別に、βカロテンやビタミンEなどのサプリメントは過剰摂取で肺がんのリスクが上昇することも分かっています。がん患者の気持ちは察しますが、ウソの体験談や宣伝文句に乗せられるのは危険です。

 サプリではなく、その成分を食事で取る分には問題ありません。サプリに多額の資金をつぎ込むなら、おいしいレストランなどに使う方が賢明だと思います。

 治療法がないと指摘しました。それは、治癒のための治療法であって、痛みなどの症状を和らげる治療法はあります。それが緩和ケアです。緩和ケアをすることで余命が延びることも明らかになってますから、緩和ケアをうまく使いながら自分らしく生きる道を探ることが大切だと思います。

中川恵一

中川恵一

1960年生まれ。東大大学病院 医学系研究科総合放射線腫瘍学講座特任教授。すべてのがんの診断と治療に精通するエキスパート。がん対策推進協議会委員も務めるほか、子供向けのがん教育にも力を入れる。「がんのひみつ」「切らずに治すがん治療」など著書多数。

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