上皇の執刀医「心臓病はここまで治せる」

日本人の心臓にいちばん問題を引き起こしているのは「高血圧」

天野篤氏
天野篤氏(C)日刊ゲンダイ

 新型コロナウイルスの感染拡大とワクチン接種が進む中で、あらためて注視されているのが「血圧」です。

 病院で計測した場合、「上(収縮期血圧)120㎜Hg未満/下(拡張期血圧)80㎜Hg未満」が正常の範囲で、「上140以上または下90以上」になると高血圧と診断され、その間の数値では「正常だが高めの血圧」と定義されます。

 高血圧の人は新型コロナウイルス感染症の重症化や死亡リスクが高いことが報告されています。また、ワクチン接種後に血圧が大幅に上昇するケースが見られ、中にはワクチン接種後の血圧計測で、前触れなく上180程度、または下130程度まで上昇する患者さんもいました。これは「Ⅲ度高血圧」(上180以上かつ/または下110以上)に該当する数値で、放置していると脳血管や心臓血管疾患で死亡するリスクが正常範囲の人と比べて、およそ10倍になります。

 ワクチン接種との因果関係はわかっていませんが、海外でも同様の血圧上昇が報告されています。いずれにせよ、新型コロナとの闘いでは、これまで以上に血圧を注視する必要があります。

 そもそも日本では、心臓にさまざまなトラブルを引き起こす、いちばんの要因は高血圧です。血圧が高くなると、心臓が血管に血液を送り込む際により大きな力が必要となり、それだけ心臓に負担がかかります。血管にも大きな圧力がかかるので、血管の内壁が傷ついて動脈硬化や瘤化が起こりやすくなります。すると狭心症や心筋梗塞などの虚血性心疾患、大動脈解離、不整脈といった心臓疾患につながるのです。

 現在の日本では約4000万人が高血圧に該当すると推定され、日本人はもともと高血圧の“素養”を持つ人が多いといわれています。諸外国と比べて塩分摂取量が多いのです。塩分を過剰摂取すると、血液の浸透圧を一定に保つために血液中の水分が増加して血液量が増えます。すると血管の内壁に加わる抵抗が強くなり、血圧を上昇させます。

 日本人の塩分摂取量は成人1日当たり11グラムというデータがあります。WHO(世界保健機関)の推奨摂取量は1日5グラム以下ですから、2倍以上です。江戸時代には1日50グラムも摂取していたといわれているように、歴史的にも日本では塩分の過剰摂取が続いてきたといえるでしょう。

 高血圧は遺伝的要因も関係しているといわれていて、両親やきょうだいに高血圧の人がいる場合、本人も高血圧になりやすいことが知られています。日本は島国ですから、そうした因子が薄まることなく蓄積され、高血圧体質の人が多いと推察されます。

 さらに近年は、それほど体を動かさず頭を使って仕事をする機会が増えています。座っている時間が長くなると、血液を心臓に戻す足のポンプ機能が働かなくなり、血流が悪くなります。すると、全身に血液を送り出している心臓は余計な力が必要になり、血圧が上がります。座ったまま足を動かさずに1時間を経過すると血流が悪くなって血管内皮に悪影響を与えるという報告もあります。こうした生活習慣の変化も高血圧の人が増えた一因になっています。

■降圧剤はよく効くが…

 高血圧の人が増えている状況でも、寿命が延びているのは、血圧を下げる降圧剤がどんどん進化しているからです。現在の日本では大きく分けて6種類の降圧剤が処方されていて、それぞれ新しいタイプもどんどん開発されています。いずれもよく効くので、高血圧の人が血圧をきちんと管理するためには欠かせません。

 ただ、薬によって血圧が下がり過ぎてしまいトラブルにつながるケースも少なくありません。ですから、降圧剤とうまく付き合っていくためには、定期的に自分で血圧を測定して、きちんと血圧をコントロールできているかどうかを確認しながら服用することが大切です。

 また、医療機関では高血圧とは診断されず、降圧剤を飲んでいない人の中にも、じつは血圧が高い状態だったというケースがあります。血圧は状況に応じて変化するため、本当は高血圧体質なのに自分では気づいていない人がいるのです。

 そうしたリスクを避けるためにも普段から肩こりや頭重感、首のあたりで脈拍を自覚するような方は毎日朝晩2回、血圧を測り、数値を把握しておくことをおすすめします。

■本コラム書籍化第2弾「若さは心臓から築く」(講談社ビーシー)発売中

天野篤

天野篤

1955年、埼玉県蓮田市生まれ。日本大学医学部卒業後、亀田総合病院(千葉県鴨川市)や新東京病院(千葉県松戸市)などで数多くの手術症例を重ね、02年に現職に就任。これまでに執刀した手術は6500例を超え、98%以上の成功率を収めている。12年2月、東京大学と順天堂大の合同チームで天皇陛下の冠動脈バイパス手術を執刀した。近著に「天職」(プレジデント社)、「100年を生きる 心臓との付き合い方」(講談社ビーシー)、「若さは心臓から築く 新型コロナ時代の100年人生の迎え方」(講談社ビーシー)がある。

関連記事