開発が進むコロナ治療薬 「飲み薬」だからこそ期待が大きい

「モルヌピラビル」(米メルク社提供)
「モルヌピラビル」(米メルク社提供)

 新型コロナウイルスとの闘いに光が見え始めた。ワクチン接種が進む一方で、新たな治療薬が続々と開発されていて、中でも、自宅で服用できる経口治療薬=飲み薬への期待が高まっている。

 メルク社が開発中の経口抗ウイルス薬「モルヌピラビル」が、重症化リスクのある新型コロナウイルス感染症の患者に対し、「入院と死亡のリスクを半減させた」とする臨床試験の中間結果が発表された。臨床試験は発症から5日以内の軽度から中等度と診断された患者775人を対象に実施され、5日間にわたり1日当たり2回投与を受けた患者のうち、入院となったのが7.3%で、死亡者はゼロ。一方、プラセボ(偽薬)を投与されたグループの入院率は14.1%、死亡は8人だった。

 こうした結果を受け、日本政府は年内にもモルヌピラビルを特例承認して実用化する方向で動いている。今回の臨床試験データはあくまでメルク社のプレスリリースで発表されたものだが、期待できるのか。米国の研究機関で抗体製剤の開発研究をしていた岡山大学病院薬剤部の神崎浩孝氏は言う。

「モルヌピラビルは、『RNAポリメラーゼ阻害薬』といわれるタイプの抗ウイルス薬です。ウイルスが侵入し、RNAを複製する際に必要なRNAポリメラーゼという酵素の働きを阻害することで、ウイルスの増殖を抑制します。抗インフルエンザ薬のアビガンと作用機序は同じで、モルヌピラビルももともとはインフルエンザ治療薬として開発が進められたものでした。新型コロナウイルスとインフルエンザウイルスはいずれもRNAウイルスで、同じような過程で増殖します。そのため、ターゲットとするウイルスを変更して“転用開発”しやすいといえます」 

■日々の生活の不安を解消できる

 臨床試験の結果では、短期の検証で副作用も認められず、米国では年内にも緊急使用が承認される可能性が高まっている。そうなれば、新型コロナウイルスに対する初の経口治療薬となる。

「効果がきちんと認められることが大前提として、モルヌピラビルに期待がかかる大きなポイントは『飲み薬』だという点です。中等症から重症の患者に使われている抗ウイルス薬のレムデシビル、分子標的薬のバリシチニブ、ステロイド薬のデキサメタゾンは、すべて経口薬ですが、状態が悪化して入院が必要になってから使用されます。一方、酸素投与を必要としない軽症または中等症の治療で使われている『ロナプリーブ』と『ソトロビマブ』は、いずれも点滴で投与するタイプで、現時点では、基本的に医師によって投与してもらわなくてはなりません。そのため、デルタ株が猛威を振るっていた時期のように医療が逼迫している状況では、最大限の恩恵にはあずかれないといえます。しかし、重症化して入院が必要になる前に、自宅で薬を飲んで対処できるようになれば、医療逼迫の解消につながります。何より、これまでは対処法がなかったウイルスに対し、薬を飲めば改善が見込めるという選択肢ができることで、日々の生活の不安が解消される。通常の暮らしを取り戻すための大きな一歩になるといえるでしょう」(神崎氏)

 モルヌピラビルだけでなく、新型コロナの経口治療薬はいくつも開発が進んでいる。同じRNAポリメラーゼ阻害薬では、ロシュ社と中外製薬が手掛ける「AT-527」の臨床試験が最終段階まで進んでいて、来年早々の申請が予定されている。

 ファイザー社や塩野義製薬は、細胞内でウイルスが増殖する際に必要なタンパク質の切断を担う酵素の働きを阻害する「3CLプロテアーゼ阻害薬」と呼ばれるタイプの経口抗ウイルス薬を開発中で、いずれも臨床試験が進んでいる。

 ワクチンと経口治療薬が出揃うことで、これから新型コロナは季節性インフルエンザのような感染症に近づいていく期待を持てるようになる。マスクや手洗いといった感染対策と合わせ、やっと“出口”が見えてきたといえるのではないか。

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