進化する糖尿病治療法

糖尿病患者がコロナにかかったら…薬の飲み方で気をつけること

写真はイメージ
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 新型コロナウイルスの新規感染者の数がかなり落ち着いてきました。ただ、ブレークスルー感染や変異株の流行を考えると、安心するのはまだ早いでしょう。今回は、また感染拡大が起こり、自宅療養の可能性が生じたとき、糖尿病患者さんが薬の飲み方で注意すべきことを取り上げたいと思います。

 8月27日、日本糖尿病学会と日本糖尿病協会が、医師と糖尿病患者双方に「シックデー対策」を行うよう、公式サイトで呼びかけました。これは、糖尿病の持病がある方がコロナに感染し、自宅で療養中に糖尿病性ケトアシドーシスを来し、死亡したことを受けてです。

 シックデーというのは、糖尿病の患者さんがコロナに限らず感染症などの病気にかかったとき、発熱、嘔吐、下痢、腹痛などによって血糖値が乱れやすくなった状態を言います。

 病気は、体にとってはストレスなので、その異常事態に対処するため、体内でストレスホルモンが分泌されます。しかし、ストレスホルモンは血糖値を上げる作用があるので、糖尿病の患者さんでは、たとえこれまで血糖コントロールが良好でも、またいつも通りの生活を送っていても、血糖値が高くなります。

 追い打ちをかけるのが、インスリンの分泌や効き目が悪くなること。さらに高血糖になると体の抵抗力が落ちるため、「より病気が悪化する→一層血糖値が上がる」という悪循環を招きかねません。発熱や下痢は脱水症状を起こすので、これも血糖値を上げてしまいます。

 一方で、病気で食欲不振となって食事を十分に取れず、しかしいつも通りに薬を飲んだり注射したりするために低血糖を起こすリスクが高くなることもあります。これも「シックデー」です。

 そして、もうひとつの「糖尿病性ケトアシドーシス」とは、血糖値を下げるインスリンが不足し、血糖値が非常に高くなってしまうこと。そうなると、体の細胞内の水分は血液中に移動し尿として排出され、水分不足から脱水症状になります。

 また、インスリンが不足しているため細胞は糖分を取り込めず、エネルギー不足になって、脂肪を分解してエネルギーを得ようとします。そのとき、酸性の物質である「ケトン体」が作られ、体が酸性に傾き、呼吸や心臓がうまく働かなくなります。

 脱水症状とケトン体の発生で、対応が遅れれば死に至ることもある……。それが、糖尿病性ケトアシドーシスなのです。

 コロナを含む何らかの病気になると、シックデーから糖尿病性ケトアシドーシスを起こすリスクが高くなる。残念ながら現時点では、コロナの治療を行うすべての医療機関で、糖尿病のシックデー対策が十分に行われているとは言えません。万が一の場合を考えて、糖尿病がある方は、主治医とシックデー対策について話し合っておくことを強く勧めます。

 2型糖尿病では、一般的なシックデー対策としては、食事量が半分以下であれば薬の量を減量する。発熱や下痢などの脱水がある場合は、メトホルミンやSGLT2阻害薬は休薬する。1型糖尿病では、食事が取れなくてもインスリン注射を完全に中断しない。

 薬を飲んでも吐いてしまう、食事を取れないということが続くなら、糖尿病専門医がいるクリニックの受診を。専門医がいない病院で点滴を受けると、点滴にグルコースが入っているので、高血糖になる恐れがあります。

 ただ、これらはあくまでも「一般的な対策」。シックデー対策は患者さん個人個人で異なります。前述のように、食べられなくても血糖値が高い方もいれば、低い方もいる。高熱だから血糖値が高いとも言えない。だからこそ、事前に主治医としっかり話し合っておいてほしいのです。

坂本昌也

坂本昌也

専門は糖尿病治療と心血管内分泌学。1970年、東京都港区生まれ。東京慈恵会医科大学卒。東京大学、千葉大学で心臓の研究を経て、現在では糖尿病患者の予防医学の観点から臨床・基礎研究を続けている。日本糖尿病学会、日本高血圧学会、日本内分泌学会の専門医・指導医・評議員を務める。

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