Fさんが亡くなってからおよそ1カ月経って、父親が「もう一度、経過を聞いておきたい」と私を訪ねて来られました。
1時間ほどこちらの説明を聞いた後、「分かりました。自分が息子と代わってやりたかった」と漏らされました。無念でした。
私は父親と一緒にエレベーターを降りて、玄関まで見送りました。姿勢よく、毅然として去っていく後ろ姿がずっと忘れられません。
完治を目指せる白血病や悪性リンパ腫では、病状がかなり悪い状態となっても、薬が不応でなければ治すことを目標に頑張ります。Fさんのがんの場合も、状態は悪かったものの抗がん剤が効く可能性があり、実際に前の2例はがんが消えていたのです。治る可能性があったはずだと、何十年経っても心残りで思い出します。
がんと向き合い生きていく