がんと向き合い生きていく

可能性があったはず…「縦隔腫瘍」だった若者をいまも思い出す

佐々木常雄氏(C)日刊ゲンダイ

 Fさんが亡くなってからおよそ1カ月経って、父親が「もう一度、経過を聞いておきたい」と私を訪ねて来られました。

 1時間ほどこちらの説明を聞いた後、「分かりました。自分が息子と代わってやりたかった」と漏らされました。無念でした。

 私は父親と一緒にエレベーターを降りて、玄関まで見送りました。姿勢よく、毅然として去っていく後ろ姿がずっと忘れられません。

 完治を目指せる白血病や悪性リンパ腫では、病状がかなり悪い状態となっても、薬が不応でなければ治すことを目標に頑張ります。Fさんのがんの場合も、状態は悪かったものの抗がん剤が効く可能性があり、実際に前の2例はがんが消えていたのです。治る可能性があったはずだと、何十年経っても心残りで思い出します。

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佐々木常雄

佐々木常雄

東京都立駒込病院名誉院長。専門はがん化学療法・腫瘍内科学。1945年、山形県天童市生まれ。弘前大学医学部卒。青森県立中央病院から国立がんセンター(当時)を経て、75年から都立駒込病院化学療法科に勤務。08年から12年まで同院長。がん専門医として、2万人以上に抗がん剤治療を行い、2000人以上の最期をみとってきた。日本癌治療学会名誉会員、日本胃癌学会特別会員、癌と化学療法編集顧問などを務める。

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