独白 愉快な“病人”たち

もし悪性だったら…モデルの理絵さん 子宮筋腫での全摘を振り返る

理絵さん
理絵さん(提供写真)
理絵さん(モデル・女優/47歳)=子宮筋腫

 2019年5月、世の中がゴールデンウイークで賑わっていたとき、私は手術のため入院していました。病名は「子宮筋腫」。悪性と確定したわけではなかったのですが、手術は開腹による全摘出にしました。

 最初に子宮筋腫が見つかったのは、いまから10年ぐらい前のことです。健康には気を使って毎年きちんと検査をしていた中で、ある年、ドクターから「子宮筋腫があるけれど、小さいし、悪いものじゃなかったから、そのままで大丈夫」と言われました。私もそのときは「大丈夫」を信じて特に気にしませんでした。

 その後も毎年経過観察を続け、6年間ぐらいはずっと4センチの大きさから変化なし。「もうきっとこのままなのだろう」と気楽に考えていました。

 ところが2018年の検査で、突然「7センチ」と告げられたのです。すぐにMRI検査を受けたところ、「変性により大きくなったのだろう」と言われ、「3カ月後に再検査をして、その結果で判断しましょう」ということになりました。

 変性は、ある程度大きくなった筋腫にありがちな変化で、筋腫中央に血液が行かなくなって水がたまったり、硬くなったりする現象です。

 それまでのんきにしていた私が微妙に焦りだしたのは、この辺りからです。ネットで子宮筋腫に“いいもの”を検索しました。

「きくらげがいい」という記事を見ては、大量のきくらげを買い込んで毎日食べ、「漢方がいい」と知れば、漢方薬局へ行ってお高い漢方を購入して必死に飲みました。

 でも、再検査の結果は8センチと大きくなっていて、手術を前提に大学病院を紹介されました。改めて行われたのは、造影剤を使ったMRI、同じく造影剤を使ったCT、そしてPET-CTという3つの検査でした。

 その結果、「ほぼ悪性ではないけれど、完全に良性とも言い切れない」というものでした。ドクターからも「手術でもいいし、経過観察でもいい。どうしますか?」と、決断はこちらにゆだねられました。

「ほぼ良性。でも悪性だったら……」と考え、子宮肉腫について調べてみると5年後の生存率が35%と書いてあってビックリ。「そんな怖い可能性を抱えたまま生きられない!」と思い、子宮全摘手術を決意しました。

 腹腔鏡手術だとお腹の中で腫瘍を小さく切ってから取り出すことになるので、もし悪性だったらがんがどこへ飛ぶかわからない。やるなら、開腹手術で子宮全摘しかなかったのです。

 手術のことは母親とマネジャーにしか告げずに入院しました。友人に話せば、せっかくのゴールデンウイークに「お見舞いに行かなきゃ」と気を使わせてしまうかもしれず、申し訳ないと思ったからです。

 手術前には、同様の手術を受けた経験者が書いているブログを読み漁りました。例えば「術後24時間は痛いけど、それを過ぎれば和らいでくる」といった一文にどれだけ勇気をもらえたことか。だから私も後日、入院や手術のことをブログで発信したのです。「私も明日手術します」とか「読んで安心しました」という声を今でもいただいているので、書いてよかったと思っています。

 実際に痛みのピークは術後24時間を過ぎれば和らいではきました。でも、その後もけっこうずっと痛くて、「腸が癒着しないように寝返りを打つようにしてください」と指導されるのですが、その寝返りが痛くて痛くて……。手術の翌日からは「歩きましょう」と言われました。起こされるとめまいがして吐きそうになるし、痛いのに歩かなくちゃいけなくて、大変でした。本当に少しずつしか痛みは和らぎません。

 傷口はおへその下から約9センチ。消毒のタイミングに恐る恐る見てみたら、鳥肌が立つほどすごい状態でした。でも看護師さんは「キレイですね」と言うので、「これがキレイなの?」とため息が出ました。

■同室の若い患者の涙にもらい泣き

 10日後、退院するときもまだヨボヨボでした。病院で使っていた点滴棒があると歩くのが楽なので、家でネットショッピングしそうになったくらい……退院時は歩くことすらしんどかったです。

 1カ月は完全に仕事をお休みし、3カ月目ぐらいから少しずつ始めました。体調の波もありましたし、なにしろお腹に9センチの傷があるので、ウエストにゴムやベルトが当たると痛いのです。それがモデルとしては厳しくて、お仕事の完全復帰までは半年ほどかかったと思います。

 同室の患者さんの中には、まだ若く、子供が小さいのに抗がん剤治療をしている方がいました。でも、彼女はいつでも笑顔で誰にでも明るく振る舞っていたのです。

 ある日、看護師さんがそっと彼女のベッドまでやって来て、「泣いていいのよ」と静かに話している声が聞こえました。そのときカーテンを隔てて初めて彼女が声を上げて泣いたのを聞き、思わずもらい泣きしてしまいました。鼻水が出てきてすすりたかったのですが、その音を聞かれたら「え? あの人、泣いてる?」と知られて気まずいと思い、鼻にティッシュを詰め込んで耐えました。同時に、「めげてちゃいけないな」と思えました。

 そうはいっても、誰にも告げずに入院したものですから、私だけ誰もお見舞いに来ない日々が続き、途中で寂しくなってしまい、入院中にインスタグラムをアップしました。結果として友人に知れて、その病院の口腔外科で医局長をやっている元宝塚の同期の元へウワサが届き、白衣のままお見舞いに来てくれました。「お腹痛いから笑わせないで」なんて言いながら、お見舞いのうれしさが身に染みました。

 おかげさまで術後は順調でした。でも、実は去年の春から「関節リウマチ」になってしまい、抗リウマチ薬で体調をコントロールしています。抗リウマチ薬は免疫抑制の作用もあるので、コロナ対策は人一倍、実践しています。乾燥も怖いし、人混みも恐怖……。緊急事態宣言が解除されたこれからが、むしろ要注意だと思っています。

(聞き手=松永詠美子)

▽理絵(りえ) 1974年、東京都生まれ。92年から96年まで「天乃悠華」の名前で宝塚歌劇団花組に在籍。現在はモデル、女優としてCM、雑誌、ドラマ、映画など幅広く活躍している。主な出演作は映画「少女」、ドラマ「刑事ゆがみ」(フジテレビ系)、CM「コーセー『エスプリークエクラBBクリーム』」など。

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