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のど<上>「のみ込み力」の低下を知る10の症状 専門医が解説

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 食べ物や飲み物を「のみ込む」ことを、医学用語で「嚥下」という。この機能(のみ込み力)が低下すると食べることが自由にできなくなる。それゆえ、のみ込み力は人が生きていく上で最も重要な機能のひとつだ。

「のみ込み力」は、脳梗塞やパーキンソン病などの重い病気にならないと衰えないと思い込んでいる人は多いが、それは誤解。病気とは関係なく、年を取るとのみ込み力は確実に低下する。なぜなら、老化によって、のどの機能が弱くなるからだ。

「のどを鍛えて誤嚥性肺炎を防ぐ! 嚥下トレーニング」(メイツユニバーサルコンテンツ)の著者で、神鋼記念病院(神戸市)耳鼻咽喉科の浦長瀬昌宏科長が言う。

「外来でのどの症状を訴える患者さんを多く診察しますが、内視鏡で確認すると高齢者ののどに唾液がたまっていることがよくあります。これはのみ込み力が弱っている証拠です。人は無意識に唾液をのみ込み続けています。しかし、のみ込み力が弱くなると、唾液をのみ込み切れずに、のどにたまってしまうのです」

 一般的に嚥下障害というと、通常の食事がうまく食べられないと考えるが、実際にはそれよりもかなり前の段階でのみ込む力の衰えは表れているのだ。のどの違和感を訴えて耳鼻咽喉科を受診する人の約30%がのみ込みに問題があると報告されているという。

 のみ込み力が低下すると、食道に送られるべき食べ物や唾液が気管や肺に入り込んで「誤嚥性肺炎」を起こしたり、異物が気管に詰まり「窒息」を起こす危険性がある。また、食事量が減れば筋肉量も減り、体の機能が低下する「サルコペニア」や、栄養不足から脳の機能や思考力が低下する「認知症」の原因になる。

 しかし、老化で重症の嚥下障害にいったんなってしまうと、元通りに食べられるようになるのは難しい。それは嚥下のリハビリ訓練は、状態を見ながら食べ物の形態や量、食べる姿勢を調節することが主な内容だからだ。多くの高齢者施設では、患者ののみ込み力に応じて食べる物を変えるだけというのが実情だという。

「少しむせるからといって、食べる物にとろみをつけてしまえば、のみ込み力はさらに衰えてしまいます。しかし、食事でたまにむせる程度であれば、のみ込む動作を理解して、効果的な訓練を行うことができます。まず、どうのみ込んでいるかを考えながら、水を飲んでみましょう。そうすれば、のみ込む時にどこに力を入れているか分かりますし、むせないのみ込み方を体で覚えることができます。また、それを繰り返すと、余裕をもってのみ込める『のど』をつくることができます」

 のみ込み力を高めるためには、のみ込む時に体をどのように使っているかを理解しておく必要がある。

 のみ込む動作の核になるのは、「のどぼとけがタイミング良く上に動くこと」だ。のみ込むと、のどぼとけが必ず上に動くのが分かるだろう。のどぼとけがある喉頭が上に動くことで、食道の入り口が開き、食べ物を食道に送り込んでいる。もし、のどぼとけが上に動かなければ、人は食べ物を食道に運ぶことはできないのだ。

 そして、のどぼとけを引き上げる筋肉は、顎の下にある。顎の先から少し奥を指で触ってのみ込むと、この筋肉(ごっくん筋)が硬くなるのが分かるはずだ。また、現時点での「のみ込み力」の状態を知ることも大切。次の症状に該当する数が、どれくらいあるかチェックしてみよう。

■「のみ込み力」の低下が分かる10の症状


①痰がのどによくたまる。
②唾液が多いと感じる。
③声の感じが変わってきた。
④食事中や食後にむせるようになった。
⑤せき払いが増えた。
⑥就寝中に、せきをするようになった。
⑦のみ込むときに引っかかる感じがする。
⑧のどが詰まった感じがする。
⑨液体の方が固形物よりのみ込みにくい。
⑩食べ物や飲み物が鼻に流れる。

《判定》
「0~1」いまのところしっかりしている。
「2~4」少し弱くなっている。
「5~7」かなり弱くなっている。
「8~10」すでに嚥下障害になっている可能性あり。

 また、嚥下障害を調べる簡単な検査のひとつに、次のようなテストもある。

■反復唾液嚥下テスト
 唾液ののみ込みを繰り返して、30秒間で何回できるかを調べる。唾液が出なければ水やお茶を口に含んでからでもOK。

《判定》
◆6回以上できれば問題なし。
◆3~5回で要注意。
◆2回以下しかできなければ嚥下障害。

 次回は「のみ込み力」を鍛える嚥下トレーニングのやり方を紹介する。

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