コロナだけに注意を払っていると…第6波と同時にインフル大流行の声も

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写真はイメージ(C)日刊ゲンダイ

 新型コロナウイルス感染症が落ち着きを見せるなか新たな脅威を心配する声が上がっている。冬に新型コロナと同時にインフルエンザが大流行して「ツインパンデミック」が起こるのではないか、というのだ。可能性はどうなのか? そもそもいつまでも新型コロナばかりに注意を払っていていいのか? 弘邦医院の林雅之院長に聞いた。

 厚労省によると令和3年第39週(9月27日から10月3日まで)の全国のインフルエンザ患者数は5人。これは昨年より2人、一昨年より4538人も少ない。にもかかわらず、なぜ今年の冬はインフルエンザが流行すると考えられているのか?

「昨年はインフルエンザに感染する人が少なかったため日本人のインフルエンザに対する免疫が弱まっていることがあります。さらに今夏、バングラデシュやインドなどアジアの亜熱帯地域でインフルエンザが流行しており、これらの地域でウイルスが保存され、今後国境を越えた人の移動が再開されれば、世界中へウイルスが拡散される懸念があるのです」

 早めのインフルエンザワクチン接種が声高に呼びかけられているのはそのためだ。

 むろん入院リスクが高い60歳以上、インフルエンザ脳症リスクの高い10歳未満、慢性呼吸器疾患や心血管疾患、糖尿病など持病がある人はインフルエンザワクチンを打つ必要がある。

 ただし、今更騒いだところでインフルエンザワクチンの流通本数は変わらない。例年通り必要な人が冷静に考えて打てばいい。そもそも昨年もツインパンデミックへの懸念はあったが流行したのは新型コロナだけだった。

 その理由は手指消毒やマスク着用、3密回避、国際的な人の移動の制限などの新型コロナ対策がそのままインフルエンザの感染予防として有効だったと考えられている。また、インフルエンザウイルスと新型コロナウイルスとの間にウイルス干渉が起きた可能性も指摘された。

「ウイルス干渉とは先にあるウイルスが流行していると、他のウイルスの流行が抑制される現象を言います。医療関係者の間ではよく知られている現象です。簡単に言うと先に体内に侵入したウイルスが細胞内にもぐり込むために必要な受容体(レセプター)を占領してしまうため、あとから来たウイルスが細胞への侵入口を見いだせず、感染できなくなるのです。仮に昨年、インフルエンザが極端に少なかった原因がウイルス干渉にあるのなら、新型コロナが下火になったこれからはインフルエンザに注意は必要だと思います。しかし、3密回避などの感染予防は続けられますし、海外でツインパンデミックが話題になっていません。日本だけがツインパンデミックになる可能性は低いのではないでしょうか」

■がん死は14%増予測、自殺は1000人増

 そのことより、「大流行」という言葉がもたらす不安感が心配だと林院長は言う。

「先日、世界的に権威のある英医学雑誌『ランセット』に新型コロナにより不安障害とうつ病が増加したとする研究論文が掲載されました。それによると2020年の新型コロナ拡大に伴い、不安障害が7600万人、うつ病が5300万人増加したそうです。その多くは若者と女性で、若者は学校閉鎖で友達に会えない状態が続いたことが要因で、女性は、巣ごもりによる家事の負担増と家庭内暴力リスク増が原因だったということです。日本の状況も同じでしょう。新型コロナの正体がわからず治療法も予防法も確立していなかった流行初期なら仕方がありません。しかし、ワクチンも、治療薬も整いつつあり、致死率が下がっているいまは、新型コロナの不安を強調するばかりではなく、それを和らげ通常医療に目を向けさせるよう努めるべきだと思います」

 実際、新型コロナ感染への不安による受診控えでがんが増えているという報告がある。

「ランセットオンコロジー」9月3日号によると、行動制限に伴う受診控えなどにより早期発見が遅れ、「肺」「子宮頚」「大腸」「前立腺」「胃」がんによる死者数は、例年に比べて2021年は14%、2022年は10%増えるとの可能性が報告されている。

 自殺も増えている。日本の自殺者数は、2019年の2万169人から2020年は2万1081人と912人増加。

 2021年の1月から7月の自殺者数は1万2452人で、2019年同時期の1万2255人より197人増加している。

 つまり、日本で最初に新型コロナの感染者が確認された2020年1月以降、自殺は1000人以上増えている計算だ。

 これらは、ほんの一例で新型コロナに目を奪われている間に危険にさらされている命はたくさんある。そのことにも目を向けるべきではないか。

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