心臓手術の名医が語るコロナ禍の治療最前線

コロナによる受診や手術控えは心臓に何をもたらしているのか

ニューハート・ワタナベ国際病院総長の渡辺剛氏(提供写真)

 実は、こうした例は日本に限った話でなく全世界で起きているという。全米胸部外科学会の報告によると、2020年の全米での心臓血管外科手術件数は2019年の数に比べ53%減ったという。これにより、心臓の手術を待っている患者が多数死亡した可能性がある。実際、米国では平年よりも多くの人が亡くなる「超過死亡」が昨年30万人以上に上り、その中には少なからぬ数の心臓病患者が含まれているとみられている。

「米国は世界一新型コロナ死が多い。そのことから、多くの病院がコロナ患者を最優先して治療しています。特に呼吸不全に対しては人工心肺などが必要であり、そこに人工心肺士や心臓外科の医師が動員された結果、一部の心臓病の手術は不要不急の手術とされているようです」

 渡辺総長は知る人ぞ知る心臓外科の名手。ドイツ留学中の31歳のとき、心臓移植のチーフレジデントとして日本人最年少の心臓移植執刀医となった。1993年に人工心肺を用いない、心臓を動かしたままのバイパス手術(心拍動下冠動脈バイパス手術=ОPCAB)を成功。1999年には世界初の完全内視鏡下の冠動脈バイパス手術を行った。41歳で国立金沢大学医学部の心肺・総合外科の教授に就任。心臓アウェイク手術(自発呼吸下心拍動下冠動脈バイパス術)、外科手術用ロボットのダビンチを使った心臓手術など、国内初の手術を次々に成功させている。その渡辺総長でも、症状が進んだ心臓病は手の施しようもないケースもあるという。

「心臓病は発見が遅れるほど打つ手が少なくなってきます。ですから新型コロナが収まっているいまこそ、心臓を診ることが大切なのです」

4 / 4 ページ

渡辺剛

渡辺剛

1958年東京生まれ、ニューハート・ワタナベ国際病院総長。日本ロボット外科学会理事長、心臓血管外科医、ロボット外科医、心臓血管外科学者、心臓血管外科専門医、日本胸部外科学会指導医など。1984年金沢大学医学部卒業、ドイツ・ハノーファー医科大学心臓血管外科留学中に32歳で日本人最年少の心臓移植手術を執刀。1993年日本で始めて人工心肺を用いないOff-pump CABG(OPCAB)に成功。2000年に41歳で金沢大学外科学第一講座教授、2005年日本人として初めてのロボット心臓手術に成功、東京医科大学心臓外科 教授(兼任)、2011年国際医療福祉大学客員教授、2013年帝京大学客員教授。

関連記事