かつては命がけだった心臓病の手術も医療や手術技術の進展で格段に安全になってきた。しかし、せっかく技術的には助けられるようになったにもかかわらず患者に体力がなかったり、手術跡を気にして手術をためらい、手術のタイミングを逃してしまうケースも少なくない。そこでいま注目されているのが、胸骨を極力切らずに行う低侵襲心臓手術を進化させたロボット心臓手術だ。2019年のロボット心臓手術執刀数が世界一のニューハート・ワタナベ国際病院の渡辺剛総長に話を聞いた。
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「私たちのロボット手術は、骨を切ることなく数カ所の小さな穴だけですべての操作を行う完全内視鏡手術=キーホール(鍵穴)手術です。術中の出血が少なく、術後の痛みも軽く、また美容的にも優れた手術のため、早期の社会復帰が可能です。当院では、僧帽弁閉鎖不全症についてはほぼすべての患者様にロボット手術を行っております」
ちなみに、ニューハート・ワタナベ国際病院の手術リスクは0.3%で、日本平均よりもはるかに低くなっている。
心臓の手術というと、かつては胸の中央を肋骨ごと20センチ以上切る正中切開がほとんどだった。その後、肋骨と肋骨の間を10センチほど切開して開胸器で押し広げる低侵襲性心臓手術「MICS」が登場。いまは切開したところから高画質の内視鏡を挿入し、「内視鏡下MICS」がようやく全国でも開始されたが、85%の患者はまだ正中大開胸手術を受けている。
■2センチ未満の穴を3~4カ所開けるだけ
ニューハート・ワタナベ国際病院では、このMICSをさらに進化させ、手術支援ロボット「ダビンチ」によるロボット心臓手術を行っている。
「ロボット心臓手術は7~8センチ切開するMICSと近いところに直径1センチの小さな穴を3~4カ所空け、そこから鉗子などの手術器具を挿入するだけで手術を終えることができます。そのためこの手術法では、①傷口が小さい、②出血が少ない、③術後の痛みが少ない、④早期退院が可能といったメリットがあります。開胸手術のように肋骨を切らないので、肋骨感染の心配もありません。ですから、働く女性にも人気になっています」
実際、50代の女性は別の病院で開胸手術を宣告され、胸に大きな傷跡が出来ると夏に胸の開いたシャツが着られなくなると落ち込み、手術をためらったという。その後、ロボット心臓手術の存在を知り、積極的に手術を受け、元通りの生活を続けている。
心臓の代表的な病気には、「不整脈」(上室性、心室性、徐脈性)、「虚血性心疾患」(冠動脈が狭窄する狭心症、閉塞する心筋梗塞)、「心臓弁膜症」、「心膜疾患」、「心筋疾患」、「心不全」などがある。ダビンチ手術はこの中の僧帽弁、三尖弁、大動脈弁の形成術や弁置換術、狭心症に対する冠動脈バイパス術、心臓腫瘍切除術、心房細動に対するMAZE(メイズ)手術や左心耳閉鎖術などを対象としている。
■検査から退院まで3~7日間のパターンが多い
ロボット手術は、その中でも僧帽弁閉鎖不全症や三尖弁閉鎖不全症に対する弁形成術が保険診療上で認められている。15歳くらいから対応可能だという。
「ロボット支援下手術は、人間の手よりも可動域が広い3本のアームを自由に動かして手術部位の視野を良好に保つことができます。そのため、精密な手術が可能です。また、基本的には通常のMICSの切開(7~8センチ)より小さな穴で手術を行うことができるというメリットがあります」
ダビンチによるロボット心臓手術の場合、ニューハート・ワタナベ国際病院では外来での診察から入院までの期間はおおむね7日間。手術の2日前に入院してCT検査を受け、ダビンチ手術後3~7日後に退院するパターンが多いという。
「僧帽弁閉鎖不全症に対する僧帽弁形成術の場合、切開は4カ所で傷の大きさは直径1センチほどです。いずれの切開でも骨を切らないため身体的な負担は少なく、手術の翌日から歩行と食事ができ、リハビリも開始します。通常、術後2日目に点滴が終了となり、術後2~3日でシャワーを浴びることが可能です。3~7日間で退院できる状態になります」
ニューハート・ワタナベ国際病院でのダビンチによるロボット心臓手術(僧帽弁・三尖弁形成術)の費用は、自己負担額約15万円(年収が約370~770万円の70歳未満の人で公的保険が使える場合)が目安になる。