進化する糖尿病治療法

継続して実行できる「短期的な目標」と「長期的な目標」を持つ

自信につなげることが大事
自信につなげることが大事(C)PIXTA

 糖尿病は、長く付き合っていかなければならない病気です。

 摂取カロリーの制限、規則正しい食事時間、減塩、定期的な運動など、患者さんに実施して欲しいことは山のようにありますが、厳し過ぎる課題は、患者さんが継続できません。

 主治医として怖いのは、「先生に怒られるから病院へ行かない」「あれもダメ、これもダメの生活なんて、もう嫌だ」などと思い、治療からドロップアウトしてしまうこと。

 病院へ行かなくなり、何の手も打たなくなれば、確実に症状は悪化します。治療をあのまま継続していたら、人工透析になっていなかっただろう、糖尿病性網膜症で視力を失っていなかっただろう、神経障害で足切断となっていなかっただろう――と後悔している糖尿病患者さんは、全国に数多くいると思います。

 治療を継続してもらうために、私が患者さんに念頭に置いてもらいたいのが、「短期的な目標と、長期的な目標を持つ」ということです。

 糖尿病患者さんには、甘いものを好む肥満気味の人が結構います。「甘いものは控えめに」と言うのは簡単ですが、患者さんに実行してもらうのは難しい。

 私が提案するのは、たとえば長期的な目標を「半年間で3キロ減」「1年かけて適正体重まで持っていく」「3カ月でヘモグロビンA1cを何%まで下げる」など。短期的な目標としては、「夕食の時間を少し前倒しに。あるいは、量を少しだけ控えめに」といった食事全般に対することを提案します。

 具体的な食品に対して言うなら、「洋菓子を、和菓子に替えましょう」「生クリームたっぷりのケーキを、プリンにしましょう」「毎日甘いものを食べるのではなく、1日置きにしましょう」「砂糖入り缶コーヒーを、微糖のコーヒーにしましょう」など。

 人によって、実行可能な内容は異なります。「和菓子じゃ食べた気がしない。生クリームたっぷりのものが大好きなんだ!」という人には、1週間のどこかで好きなものを存分に食べる「ご褒美の日」を設けることを提案するかもしれませんし、ほんの一口でも満足できる人には、それに見合った方法を提案します。

 甘いものに関心がない人には「めちゃくちゃ小さいレベルの目標」かもしれません。しかし、甘いもの好きには「かなりハードルが高い目標」ということは往々にしてあります。どういう内容だったら、ほんの少しの努力で実行できるか? 患者さんの意見を聞きながら決めていきます。最近では果物も指導範囲に入れることが多いです。

 そして短期的な目標を難なくクリアできるようになれば、また新たな目標を設定します。長期的な目標も同様です。目標はできる限り具体的な内容にすること、徐々にレベルを上げていくことの2つが肝心です。

 この方法がいいのは、目標をクリアできた時、患者さんが自信を持てる点です。1つの成功体験は、「これができたなら、あれもできるかも」という気持ちを芽生えさせ、次の成功体験につながります。

 糖尿病患者さんでこの「長期的な目標と、短期的な目標を持つ」をまだ試していない人は、今日から始めてみてください。

 そして、そんな糖尿病患者さんのご家族や親しい人がこの連載を読んでいてくれているなら、「それくらいできるでしょ、と言うのはNG」と頭に叩き込んでおいてください。態度で示すのもダメです。患者さんのやる気を失わせます。

 患者さんが目標を1つクリアしたら、ぜひ「すごい! なかなかできないと思うよ」と称えてください。それも、本心から!

坂本昌也

坂本昌也

専門は糖尿病治療と心血管内分泌学。1970年、東京都港区生まれ。東京慈恵会医科大学卒。東京大学、千葉大学で心臓の研究を経て、現在では糖尿病患者の予防医学の観点から臨床・基礎研究を続けている。日本糖尿病学会、日本高血圧学会、日本内分泌学会の専門医・指導医・評議員を務める。

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