新型コロナワクチン副反応を徹底検証【ギラン・バレー症候群】日本で75件の疑い報告

インフルエンザの予防接種を受ける女性
インフルエンザの予防接種を受ける女性(C)共同通信社

 EMA(欧州医薬品庁)が9月、英アストラゼネカの新型コロナワクチンの副反応として、ギラン・バレー症候群を追加したと発表した。ギラン・バレー症候群については、FDA(米食品医薬品局)が7月、米ジョンソン・エンド・ジョンソングループ開発の新型コロナワクチンについて、「接種後、発症リスクが高まる可能性がある」と警告。米ファイザー製、米モデルナ製では有害事象報告は出ていない。

 日本ではファイザー、モデルナ、アストラゼネカ3社のワクチンが承認されているが、厚労省発表の「医療機関からの副反応疑い報告」数は、ファイザー製66件、モデルナ製9件(10月22日時点)、アストラゼネカは接種数が少ないこともあってか、0件。厚労省は「副反応検討部会が今後の評価案件として注視している」と話す。

 ギラン・バレー症候群は末梢神経が障害されることによって脱力、しびれ、痛みなどの症状が引き起こされる病気だ。

 国際医療福祉大学熱海病院検査部部長の〆谷直人医師が説明する。

「発症は10万人当たり1~2人と比較的珍しい病気ですが、小児から高齢者まですべての年代で発症する可能性があります。原因は解明されていないものの、約8割に何らかの感染症が認められています。3人に2人は発症の1~3週間前に細菌のカンピロバクター、サイトメガロウイルス、EBウイルスなどの感染症にかかった既往があるとされています」

 コロナワクチンに限らず、インフルエンザやポリオ、肺炎球菌といったワクチン接種で引き起こされるケースも報告されているという。〆谷医師によれば、インフルエンザワクチンでは接種後2週目がピークで、6週以内の発症がほとんど。ポリオワクチンは、接種後間もなく下痢が起こり、1~2週間後に手足の力が入らない運動マヒなどの症状が多く見られる。

「理由としては、細菌やウイルスに対する抗体が自身の末梢神経を攻撃し発症することが分かっています。ウイルス感染後の発症のメカニズムに関しては、ワクチン接種の発症と同様の原因が推定されているものの、証明はされていません」

 症状の表れ方や重症度には個人差がある。典型例は、発熱や風邪症状、下痢などの感染症の症状が生じて1~4週間後に足の力が入りにくくなり、徐々に腕にも脱力が広がり、階段の上り下りができなくなったり、物がつかみづらくなる。同時にしびれや痛みが生じるケースもある。

■早期に神経内科を受診すべき

「ギラン・バレー症候群は自然に軽快していくケースが多いとされています。とはいえ、重症例では顔の筋肉や目を動かす筋肉、物の飲み込みに関わる筋肉にもマヒが生じることがあり、呼吸に関わる筋肉がマヒして呼吸困難に陥るケースもあります。そうなると命に関わりますし、早期治療ほど完治の可能性が高まるため、感染症症状後、数週間で急に脱力症状などが生じた場合は、できる限り早く病院の神経内科を受診してください」

 問診でギラン・バレー症候群が疑われる場合、確定診断のために血液検査、髄液検査(腰椎穿刺検査)、神経伝導検査(筋電図検査の一つ)、CTやMRIなどの画像検査などが行われる。血液検査では約60%の人に末梢神経の構成成分である糖脂質に対する抗体が認められる。また、神経伝導検査で情報伝達障害が確認され、髄液検査でタンパク質の値が高値であるのに対し、細胞数の増加を認められなければギラン・バレー症候群が考えられる。

 治療は一般的に、血漿中の有害物質を取り除き体内に戻す血液浄化療法や、免疫の働きを調整する免疫グロブリンの大量静注療法。呼吸困難があれば人工呼吸器装着、嚥下困難があれば栄養管理(経管栄養)など、それぞれの症状を改善するための治療も行われる。

 なお、冒頭のEMAは、ギラン・バレー症候群の副反応は頻度が最も低い「非常にまれ」で、ワクチン接種の効果はリスクを上回ると強調している。FDAも、頻度は低いことから、ワクチン接種を推奨する方針は変えていない。

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